![きなりの雲 [単行本] / 石田 千 (著); 講談社 (刊) きなりの雲 [単行本] / 石田 千 (著); 講談社 (刊)](https://images-fe.ssl-images-amazon.com/images/I/51iGhbam7iL._SL160_.jpg)
きなりの雲 [単行本]
石田 千 (著)
講談社 (刊)
編み物を仕事とするさみ子が、失恋が原因の引きこもり生活から、気持ちも新たに生き直していく物語。
古いアパートの隣人や、不義理をしても温かく迎えてくれる編み物教室のメンバー、そして面倒をみていた植物たち。
そうだそういえばと思い当たることがある。
植物の物言わぬ力強さには、自分のふがいなさに恥じ入るほど心打たれるときってあるなぁと。
心も体もやせ細って自分のことさえ見えなくなっていたときにも、余計なことを言わず手も出さず、見守ってくれる周囲の人たちが温かい。
さみ子さんは言いたいことの半分くらいしか口に出さず、何をしてもしなくても、これで良かったのかと立ちどまりながらでないと進めない、不器用な人に見える。
そのくせ時として、まわりが驚くほど思い切りのよさや図太さを見せる時もある。
そんなさみ子さんが、愛おしくてならない。
さみ子さんがのたうちまわった半年を知らず、まっすぐわがままな思いをぶつけてくるじろうくんは、ずるい。
相手に選ばせるのは、自分の気持ちはここまでと冷たい物言いな気がする。
でも、恋はしたほうが負け。恨みごとも迷いもきっと、好きな気持ちには勝てない。
「やってみてだめでいいじゃない。もう若くないんだから。」
そう言う玲子さんの言葉にはっとする。
若いうちは、失敗してもやり直せるし立ち直れると思う。
そうでなくなったら、自分や誰かを傷つけることになっても思うように生きなければ、もう後悔する時間も残っていないかもしれない。
そういうことなんだ。
そこここに、相手を想う気持ちがあふれている物語だった。
さみ子さんと同じくもう若くはない自分にとって、しみじみしたりずんと響いたりするところが多かった。
見えなくても温かい。一番長く続けられる関係は、そうしたものかもしれないね。
宿のおかみさんに母の顔を思い出すくだりには、胸がちくりとした。
今しかできないこと、しなくてはいけないことが、まだまだあるなぁ。

