2012年09月11日

きなりの雲

きなりの雲 [単行本] / 石田 千 (著); 講談社 (刊)
きなりの雲 [単行本]

石田 千 (著)

講談社 (刊)




編み物を仕事とするさみ子が、失恋が原因の引きこもり生活から、気持ちも新たに生き直していく物語。

古いアパートの隣人や、不義理をしても温かく迎えてくれる編み物教室のメンバー、そして面倒をみていた植物たち。
そうだそういえばと思い当たることがある。
植物の物言わぬ力強さには、自分のふがいなさに恥じ入るほど心打たれるときってあるなぁと。
心も体もやせ細って自分のことさえ見えなくなっていたときにも、余計なことを言わず手も出さず、見守ってくれる周囲の人たちが温かい。
さみ子さんは言いたいことの半分くらいしか口に出さず、何をしてもしなくても、これで良かったのかと立ちどまりながらでないと進めない、不器用な人に見える。
そのくせ時として、まわりが驚くほど思い切りのよさや図太さを見せる時もある。
そんなさみ子さんが、愛おしくてならない。

さみ子さんがのたうちまわった半年を知らず、まっすぐわがままな思いをぶつけてくるじろうくんは、ずるい。
相手に選ばせるのは、自分の気持ちはここまでと冷たい物言いな気がする。
でも、恋はしたほうが負け。恨みごとも迷いもきっと、好きな気持ちには勝てない。
「やってみてだめでいいじゃない。もう若くないんだから。」
そう言う玲子さんの言葉にはっとする。
若いうちは、失敗してもやり直せるし立ち直れると思う。
そうでなくなったら、自分や誰かを傷つけることになっても思うように生きなければ、もう後悔する時間も残っていないかもしれない。
そういうことなんだ。

そこここに、相手を想う気持ちがあふれている物語だった。
さみ子さんと同じくもう若くはない自分にとって、しみじみしたりずんと響いたりするところが多かった。
見えなくても温かい。一番長く続けられる関係は、そうしたものかもしれないね。
宿のおかみさんに母の顔を思い出すくだりには、胸がちくりとした。
今しかできないこと、しなくてはいけないことが、まだまだあるなぁ。
posted by てまり at 00:00| Comment(0) | TrackBack(0) | 石田 千 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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