2012年08月05日

晴天の迷いクジラ

晴天の迷いクジラ [単行本] / 窪 美澄 (著); 新潮社 (刊)

母の溺愛によって兄と妹が壊れ、さらに孫へと執着が続く家を出て東京のデザイン会社に入った由人。
18歳で生んだ子供を捨てて東京へ、夢中で働きデザイン会社を作ったが不景気でつぶれそうな野乃花。
姉が幼くして病死したことから過干渉な母に追い詰められ、引きこもった正子。
先は手詰まり、戻る場所はない。
そして死を意識した3人が同じ車に乗り合わせ、とりあえず、湾に迷い込んだクジラを見に行こうとする話。

親子ほど年の違う社長と社員、高校生の少女。
年齢も立場もそれぞれ違う、生い立ちから今に至る軌跡が描かれる。
そこに見えるのは、歪さを抱えた家族のかたち。
母親の無自覚な偏愛や過干渉で、自分の気持ちを内へ内へとしまいこんだ子どもが壊れていくのを見るのは、とてもつらかった。
由人には父や祖母の理解があったけれど、正子の父はむしろ母親以上に追い詰めた。
親って、自覚がないまま子どもを傷つけていることがどれほどあるんだろうと他人事でなく思う。
若い母としての野乃花も痛ましい。
子どもと一対一でしか向き合えない育児は、とてつもなく孤独だから。
彼女の選択が最善ではなかったかもしれないけれど、もしかするともっと最悪の事態を逃れたのかもと思ってしまう。

親の影響を受けない子はいないし、理不尽や不公平は生まれた時から付いて回る。
しかたのないことはたくさんあるけれど、自分で決めて選べることはもっとたくさんある。
生きてさえいれば。
終盤、正子がようやく怒りを外に向けることができたとき、ああよかった、これで彼女も大丈夫だと思った。
正子に向けたおばあさんの言葉が温かかくて、じいんと響いた。
大切に思われたり必要とされたり、ちゃんと自分を見てくれていたり、そういう実感が人を生かす力になるんだな。
それには、生きてさえいればいい、そう言ってくれる誰かの存在が必要なんだ。

疑似家族のかたちから、生きていく再生の力を取り戻した3人。
どん詰まりの湾から大海へ泳ぎだしたクジラは、彼らの象徴。
晴れやかな読後感。良かった。
posted by てまり at 00:00| Comment(0) | TrackBack(0) | 窪 美澄 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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