
センセイの鞄
- 作者: 川上 弘美
- 出版社/メーカー: 平凡社
- 発売日: 2001/06
- メディア: 単行本
これはなんというお話なのだろう。 久々に、心がしんと静まるようなお話を読んだ気がする。
静かな、静かな、恋の物語だったので、静かに少しだけ、泣いた。
きっと、泣きたいんだか悲しいんだか、あきらめてたんだかわからないまま、思い切り泣けなかっただろうツキコさんの代わりに。
高校で国語を教わったセンセイと、駅前の一杯飲み屋で隣り合わせて以来、約束をするでもなく、でも会えば一緒に飲み、注文もお勘定もそれぞれ自分でするという、年の離れた友人のようになったツキコ。
やがてセンセイの存在は、少しずつツキコの中で大切なものに育っていき、元同級生の小島孝に言い寄られてやっと、自分の気持ちを確かめる。
思い余って告げた自分の気持ちも、「大人」であるセンセイには軽くいなされてしまう。
きっと本当はセンセイも同じ気持ちで、けれど老人である自分を知っているセンセイは、今まで背負ってきたもの、先々のことを考えると簡単には応えられなかったのだろうね。
それにしても、おちゃめなセンセイなのだ。
日本人はみな巨人ファンという偏見をおおっぴらに持ち、絡まれた酔客のピアスを擦ってしまう。
それも、言葉遣いひとつ崩さずに。
ツキコさんが、どんどん惹かれていく気持ち、わかるなぁと思ってしまった。
センセイは、ツキコさんより30とちょっと上、だから70歳前後だったのだろう。
いつまで一緒にいられると、約束できる年齢ではない。
残される方もつらいけど、大切な人を残して逝かなければならないこと、そうとわかっていても一緒にいようというのは、覚悟の要ることだと思う。
「デートをいたしましょう」から3年。 なんて短い。
それでもその3年は、残されたツキコさんが元気に生きていけるほど、甘やかだったに違いない。
せつないけれど、悲しい恋ではない。 そう思う。