たまたま舞い込んできたこの本、ベストセラーだったらしい。
15歳の少年ミヒャエルがふとしたことから21歳も年上のハンナと知り合い、濃密な愛を交わす間柄となったが、その一環として彼女は本を朗読してもらうことを好んだ。 しかしミヒャエルが同級の友人たちとのくったくない親交を楽しむようになったある日、突然ハンナは彼のもとから姿を消してしまう。
そしてミヒャエルが法科の大学生として傍聴することになったナチス戦犯の裁判で、被告席に座るハンナと再び出会うことになる。傍聴席で、 ハンナが決して明かそうとしなかった収容所看守としての過去に関わっていく中でミヒャエルは、彼女が不要な罪を背負ってでも隠したいことがあることに気付く。
アウシュビッツをはじめとする収容所について、それほど多くのことを知っているとは言えない。
けれど「人が人に対してどうすればここまで恐ろしいことができるのか」と思い、「こんなことに関わった人たちは特別残酷な人間だったのだ」となんとなく思っていた。
自分を含む「普通の人」は、こんなことはできないと。
ハンナは収容所の看守として、アウシュビッツ行きを選別する、つまり死の宣告をする役目を担っていた。それが仕事だったから。 ではなぜそんな仕事を選んだのか?おそらく恵まれない環境に育ったため、彼女は読み書きができなかった。そしてそれを知られることを何よりも恐れた。
そのため、読み書きに関わらないよう選んだ仕事が、たまたま親衛隊だった。
彼女は無知だった。そのことに気付いてもいなかった。
「あなたなら何をしましたか?」裁判長に問いかけた時、初めて自分の過去を疑問視したのではないだろうか。 彼女は愚かだったため関わるべきでないことに関わり、それを仕方のないこととして受け入れてきた。 では彼女の、想像力を働かせることができない愚かさは彼女だけの個人的な責任なのか?そこまで考えると、なんだか彼女が哀れに思えてくるのだ。
獄中で読み書きを覚え、本を読み、自分の過去に関わる情報を得た彼女が選ぶ道は、やはりあれしかなかったかと思う。 いかに自分が想像力なく無関心で残酷であったか、気付いてしまった以上、許すことができなかったのか、と。
様々な濃密な匂いに彩られ、重ねた年以上に疲れきった容貌を裏切る若々しい声を持つハンナ。
若い恋人との蜜月が鮮やかなだけに、残酷な結末が哀れで、気持ちがしんと冷えてしまう。
私はこの本を、ミヒャエルとハンナの恋愛という切り口から見ることが、どうしてもできなかった。
「人間は他人がどうでもいいなんて思っちゃいけない」
男と女ということでなく、人間として、訴えてくるものを感じる。まだ未消化な感はあるけれど。