2021年05月03日

 ザリガニの鳴くところ

ザリガニの鳴くところ - ディーリア・オーエンズ, 友廣 純
ザリガニの鳴くところ - ディーリア・オーエンズ, 友廣 純

自然の芳醇な静けさをよりどころとし、人と関わることにおびえながらも渇望する少女の孤独がひしひしと伝わってくる物語だった。

見捨てられて生きてきたことも、その根底に暴力があったことも、仕方の無いことと諦めて強くなるしか無かった。
そして彼女はその答えを自然の摂理に求めた。
自分を置き去りにした母親を、暴力や悪い環境から身を守り新たな命を育むために必要な、自然界では当たり前のことと理解する。
人種差別や貧困、誰かをおとしめることが不満のはけ口になるなど、普遍的な問題にも直面するが、経験値や理解に乏しい同情すべき人という面だけでなく、誰もが思う以上に思慮深くしたたかで強い意志を持っていたことを、最後に知ることになる。
人の群れよりも自然の生き物に近い存在になっていたのかなと感じた。

痛ましいほどたくましく生き抜いた、ひとりの女性だった。
孤独な人生の最後を、心許す人と穏やかに過ごせたことが救い。
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2006年01月31日

リンさんの小さな子 / フィリップ・クローデル


リンさんの小さな子

リンさんの小さな子

  • 作者: フィリップ クローデル
  • 出版社/メーカー: みすず書房
  • 発売日: 2005/09
  • メディア: 単行本


戦禍の祖国から海を渡り、見知らぬ異国にたどりついたリンさん。年老いたその腕には、サン・ディウと名付けられた小さな女の赤ちゃんを抱いている。
とても寒く、言葉も食べ物も何もかもが故国とはまるで違うその国にとまどいながら、子どものために生きようと決めたたリンさんは、やがて公園で一人の男と知り合う。

息子夫婦も家も、それまでの生活すべてを失い、故国から遠く離れたリンさんと、妻を失い同じく喪失感にうちひしがれていたバルクさんが、 通じない言葉を交わしあいながら、友だちの絆を深めていく。 どうやらその地はフランスらしく、リンさんの故郷はベトナムあたりかと思われるが、はっきりしたことは書かれていない。
小さな子どもがいなければ、生きようとさえしなかっただろうリンさんが、ひとりの友だちを得たことで、日々の楽しみを見つける。 友だちというのは、どちらが助けるでも助けられるでもない、お互いに手を差し伸べあい、心を寄り添わせていくものだということがひしひしと伝わってくる。
リンさんが心の支えにしていたものが何だったのか、それを知った時あまりに痛ましくてやるせなくなったが、かけがえのない友だちを得た彼はきっと、 これから先も生きていけるだろう。
気持ちを小さく小さくゆらしながら、ため息とともにすっとしみこんでくるような、静かな物語だった。
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2005年11月25日

ダ・ヴィンチ・コード / ダン・ブラウン


ダ・ヴィンチ・コード〈上〉

ダ・ヴィンチ・コード〈上〉

  • 作者: ダン・ブラウン
  • 出版社/メーカー: 角川書店
  • 発売日: 2004/05/31
  • メディア: 単行本




ダ・ヴィンチ・コード〈下〉

ダ・ヴィンチ・コード〈下〉

  • 作者: ダン・ブラウン
  • 出版社/メーカー: 角川書店
  • 発売日: 2004/05/31
  • メディア: 単行本



ルーブル美術館長ソニエールが殺害され、彼とアポイントを取っていたハーヴァード大教授ラングドンは、館長の残したメッセージから犯人と疑われる。 館長とはある時期を境に疎遠となっていた孫娘の暗号解読官ソフィーは、祖父のメッセージが自分に宛てたものだと確信し、 巧妙に隠された目的を全うするためラングドンとともに逃亡する。やがて暗号が解かれてゆく先に、キリスト教会を揺るがす驚愕の事実と、 様々な思惑を秘めた人々が現れてくる。

隠された史実、絵や歌に紛れこまされたキーワードなどが、暗号が解かれていく過程で見つけられ、それがまた新たな謎を生むという、 幾重にも張り巡らされた謎解きのおもしろいこと。
キリスト教に関する諸説、ウンチクの真偽はわからないので、「へえ、そうなんだ〜」という立場で読んでいたが、あまりにも有名な絵や記号、 象徴に込められら意味を読み解くという作業は、読んでいてとても楽しかった。いつどこの世も、歴史は作られるもの、ということらしい。
さらに主人公が殺人の容疑者として警察に追われているわ、誰か敵か味方かわからないわで、意外などんでん返しはあるわで、 はらはらどきどきのノンストップミステリーだった。
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2005年11月17日

どんがらがん / アヴラム・デイヴィッドスン


どんがらがん (奇想コレクション)

どんがらがん (奇想コレクション)

  • 作者: アヴラム・デイヴィッドスン
  • 出版社/メーカー: 河出書房新社
  • 発売日: 2005/10/26
  • メディア: 単行本



奇想コレクションとして刊行された一冊。実はダン・シモンズが入ったアンソロジーと勘違いして借りたのだが、私にとって未知の作者は、 『空前絶後の受賞歴を誇る、唯一無比の異色作家』だというので読んでみたら、けっこうおもしろかった。
SFありファンタジーあり、こっけいなホラー物ありの短編集だが、表題の『どんがらがん』を筆頭に、なんだかよくわからない変わった物語が多い。 しかし巻末の殊能さんによる各編の解説に、「よくわからなくても楽しめばいい」とあるのを見て、ああそうなのかと思った次第。
『尾をつながれた王族』が良かった。
これが何物でどういう状況なのか全く説明がないのだけど、雰囲気が好み。
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2005年07月03日

朗読者 / ベルンハルト・シュリンク


朗読者 (新潮クレスト・ブックス)

朗読者 (新潮クレスト・ブックス)

  • 作者: ベルンハルト シュリンク
  • 出版社/メーカー: 新潮社
  • 発売日: 2000/04
  • メディア: 単行本(ソフトカバー)



たまたま舞い込んできたこの本、ベストセラーだったらしい。
15歳の少年ミヒャエルがふとしたことから21歳も年上のハンナと知り合い、濃密な愛を交わす間柄となったが、その一環として彼女は本を朗読してもらうことを好んだ。 しかしミヒャエルが同級の友人たちとのくったくない親交を楽しむようになったある日、突然ハンナは彼のもとから姿を消してしまう。
そしてミヒャエルが法科の大学生として傍聴することになったナチス戦犯の裁判で、被告席に座るハンナと再び出会うことになる。傍聴席で、 ハンナが決して明かそうとしなかった収容所看守としての過去に関わっていく中でミヒャエルは、彼女が不要な罪を背負ってでも隠したいことがあることに気付く。

アウシュビッツをはじめとする収容所について、それほど多くのことを知っているとは言えない。
けれど「人が人に対してどうすればここまで恐ろしいことができるのか」と思い、「こんなことに関わった人たちは特別残酷な人間だったのだ」となんとなく思っていた。
自分を含む「普通の人」は、こんなことはできないと。

ハンナは収容所の看守として、アウシュビッツ行きを選別する、つまり死の宣告をする役目を担っていた。それが仕事だったから。 ではなぜそんな仕事を選んだのか?おそらく恵まれない環境に育ったため、彼女は読み書きができなかった。そしてそれを知られることを何よりも恐れた。
そのため、読み書きに関わらないよう選んだ仕事が、たまたま親衛隊だった。
彼女は無知だった。そのことに気付いてもいなかった。
「あなたなら何をしましたか?」裁判長に問いかけた時、初めて自分の過去を疑問視したのではないだろうか。 彼女は愚かだったため関わるべきでないことに関わり、それを仕方のないこととして受け入れてきた。 では彼女の、想像力を働かせることができない愚かさは彼女だけの個人的な責任なのか?そこまで考えると、なんだか彼女が哀れに思えてくるのだ。

獄中で読み書きを覚え、本を読み、自分の過去に関わる情報を得た彼女が選ぶ道は、やはりあれしかなかったかと思う。 いかに自分が想像力なく無関心で残酷であったか、気付いてしまった以上、許すことができなかったのか、と。
様々な濃密な匂いに彩られ、重ねた年以上に疲れきった容貌を裏切る若々しい声を持つハンナ。
若い恋人との蜜月が鮮やかなだけに、残酷な結末が哀れで、気持ちがしんと冷えてしまう。

私はこの本を、ミヒャエルとハンナの恋愛という切り口から見ることが、どうしてもできなかった。
「人間は他人がどうでもいいなんて思っちゃいけない」
男と女ということでなく、人間として、訴えてくるものを感じる。まだ未消化な感はあるけれど。
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2005年02月20日

豚の死なない日 / ロバート・ニュートン・ペック


豚の死なない日

豚の死なない日

  • 作者: ロバート・ニュートン・ペック
  • 出版社/メーカー: 白水社
  • 発売日: 1996/01
  • メディア: 単行本


禁欲的な生活をおくるキリスト経の一派であるシェーカー教徒一家の物語。
ペックの父親は、生活のため他家の豚を殺してさばくのが仕事の農夫。敬虔なシェーカー教徒である彼は、欲を戒め、労働を日々の喜びとしているが、 ひとり手元に残った息子ペックには、きちんと学問も学んで欲しいと考えている。
牛のお産を助けたお礼にもらった子豚ピンキーとともにペックは成長し、品評会という両親でさえ観たことのない外の世界に触れるが、 やがてピンキーと父の死により、13歳で大人として生きることになる。

禁欲的な生活に時折少年らしい不満をもらしながらも、つらい仕事に従事する父と、それを理解する母を誇らしく思い、自然の中に楽しみや喜びを見つけるペック少年。
家族の原風景という気がする。生きること、家族を守ることの厳しさとともに、欲にとらわれず心豊かに暮らす家族の温かさと絆の強さが伝わってくる。 けれど平和で温和な日々は長く続かない。
生きるためには、家族同様慈しみ育てた豚も殺さなくてはならない。
大切な父の葬儀にさえ、着ていくまともな服がない。
「貧しいってことは地獄です」ペック少年の血を吐くような言葉が、突き刺さる。
物置の片隅で人知れず息子の名を書く練習をしていた父親は、無念でもあったろうに泣き言ひとつ言わず、13歳の息子を一人前の大人として、全てを託した。
男として、父親として、その愛情の深さと潔さ、ひいては心の強さに、深く感じ入った。
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2004年11月21日

魔法使いハウルと火の悪魔


魔法使いハウルと火の悪魔―ハウルの動く城〈1〉

魔法使いハウルと火の悪魔―ハウルの動く城〈1〉

  • 作者: ダイアナ・ウィン ジョーンズ
  • 出版社/メーカー: 徳間書店
  • 発売日: 1997/05
  • メディア: 単行本


スタジオジブリ製作・宮崎駿監督作品の原作本、『ハウルの動く城』シリーズ1
魔女が本当に存在する国インガリーに住む18歳の少女ソフィーは、ある日、荒地の魔女に呪いをかけられ90歳の老婆に変身させられてしまう。 家を出たソフィーは、うぬぼれやで移り気なばかりに恐ろしい噂を立てられている若い魔法使いハウルの動く城に無理やり住みこむ。 城に住む火の悪魔に気に入られたソフィーは、そのうちハウルの意外な素顔を知ることになる。

呪文や魔法の道具、追いかけてくるかかし、頼りないハウルの弟子、悪魔らしくない火の悪魔、いろいろな場所へ通じる幾つ者ドアを持つ動く城と、 わくわくするファンタジーだが、最終的には、ちょっと変わったラブストーリーなんですね。
「長女は何をやってもうまくいかない」と自分を見限っていたソフィーが、90歳の体に収まったとたん別人のように怖いもの知らずで失敗も叱責も恐れない、 勇ましい女性となって、自分では全く気付かないうちにハウルの心を捕らえてしまっていた。
見栄っ張りで軽薄、でもお人好しなところもあるハウルも魅力的だけれど、フン!と鼻息荒くハウルをあしらいながら、でも心は少女なソフィーが生き生きしている。
映画を観る前にストーリーを、というつもりで読んでみたが、シリーズの続編も読んでみたくなった。
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2004年02月17日

黒蠅 上・下


黒蠅 (上) (講談社文庫)

黒蠅 (上) (講談社文庫)

  • 作者: パトリシア コーンウェル
  • 出版社/メーカー: 講談社
  • 発売日: 2003/12/26
  • メディア: 文庫


黒蠅 (下) (講談社文庫)

黒蠅 (下) (講談社文庫)

  • 作者: パトリシア コーンウェル
  • 出版社/メーカー: 講談社
  • 発売日: 2003/12/26
  • メディア: 文庫


3年ぶりの検死官スカーペッタシリーズ。あまりに久しぶりなので、どういう筋書きだったかすっかり抜け落ちてしまっていたが、 区切りがついたと思っていた前回の続きとも、本当の結末とも言える物語となっていたので、登場人物、ストーリーとも思い出しながら読んだ。
迫力もあり、十分におもしろかったけれど、私自身は『検死官として事件の解明にあたるスカーペッタ』の物語が好きだったので、その枠をはるかに越え、 いわゆる正義の枠さえ大きく広げてしまった今回の物語は、ちょっとあれれ?という感も否めない。
まぁスカーペッタの年齢も若返ったことだし、この先まだまだ楽しめそうなのはうれしいのだけど。
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2003年05月24日

切り裂きジャック


切り裂きジャック

切り裂きジャック

  • 作者: パトリシア コーンウェル
  • 出版社/メーカー: 講談社
  • 発売日: 2003/02/01
  • メディア: 単行本


1888年にロンドンの下町イースト・エンドで娼婦を連続殺害したまま、ついに捕まらなかった犯人「切り裂きジャック」 たまたまスコットランド・ヤードで切り裂きジャック犯罪の権威・副警視監と会ったことから、あまりに有名なこの未解決事件の犯人を、巨額の費用を投じて調査・確信するに至ったノンフィクション。
コーンウェルの名前だけで予約したので、現本を手にするまで、こんなにごっついノンフィクションだとは思わなかった。 小説でなくても楽しめるだろうか?と不安でもあったけれど、「切り裂きジャックの真犯人を突きとめた!」とあっては、読まないわけにはいかないでしょう。
残された資料をもとに、ウォルター・シッカートという画家を犯人として割り出し、彼の人となり、時代背景、当時の警察機構などが事細かにつづられているのだが、すでに本人も事件に関わった全ての人々が亡くなっている今、そういう解釈も成り立つのだという距離で読んだ。
私自身としては、連続殺人犯がなぜ、捕まらないうちにその犯罪をやめたのかという点が一番疑問だったので、これで一つの答えを見つけられて良かったかな。
もちろん小説の方がだんぜんおもしろいけれど、なじんだ相原さんの訳で、コーンウェルの雰囲気が壊されずに楽しめたと思う。
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