2014年02月01日

 アルモニカ・ディアボリカ

アルモニカ・ディアボリカ (ミステリ・ワールド) [単行本] / 皆川 博子 (著); 早川書房 (刊)

エドとナイジェルが姿を消して5年、謎の文言を刻まれた屍体がダニエルの弟子たちを再び事件へ・・・という「開かせていただき光栄です」の続編。

なんて切ない結末!
死者として生きると告げた彼らが、それでも共に手を携えて生きているものと思いたかった。
図らずもあばかれてゆくナイジェルの生い立ちに、彼の危うさと、秘められた狡猾さの理由を知る。
けれどエドにだけは見せていたんだよね・・・
ナイジェルの目に映るエドの絵が、友愛とも情愛ともとれる彼らの結びつきの強さを物語って、さらに切ない。

エドはナイジェルを恐れたろうか。
離れがたいからこそ離れることを決めた気がする。自分への罰として。
自分の内に踏みこませた唯一の相手が自分から離れて行くとき、ナイジェルの微笑みは赦しだったのか。
赦すことで彼もまた自分を罰していたのか、と思う。
声のない慟哭が聞こえるようだ。
幼いたましいのまま生き延びてきたナイジェルは、もっと幸せになっても良かった。
それは許されないことだったのかな・・・

残酷なめぐりあわせに翻弄される、欠落と卓越をあわせもった人たち。
天上の楽器、腐敗した上流階級、奇才と見世物小屋・・・ちりばめられる要素はあやしげで残酷。
もちろん、謎を追うミステリとしても上質。
願わくは、新大陸へ渡った彼らが、あたら利発な命を無駄に散らすことがありませんように。
そしてさらに願うなら、エドがいつか普通に生きることを甘受できますように。
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2011年08月30日

開かせていただき光栄です

開かせていただき光栄です―DILATED TO MEET YOU― (ハヤカワ・ミステリワールド) [単行本] / 皆川 博子 (著); 佳嶋 (イラスト); 早川書房 (刊)

解剖がまだおぞましい行為と思われていた18世紀のロンドン、外科医ダニエルの私的解剖教室で、買い取ったものではない屍体が見つかり、ダニエルとその弟子達が身元不明屍体の捜査に協力することになった。
そして一番弟子エドワードとナイジェルが知り合った詩人志望の少年やダニエルの兄、仲買人らそれぞれの欲とはかりごとが弟子たちをも巻き込んでいく。

これはおもしろかった。
背徳的で残酷さと滑稽味をそなえ、かつミステリの驚きもある、久しぶりに満足の皆川作品だった。
墓から屍体を買い取って秘密裏に行われる解剖、四肢の切断や顔を損壊された無残な屍体、という不気味さを背景に、描かれるのはダニエルとその弟子たちの密な師弟関係。
師と学びの場、そして新たな友を守るため、エドワードを筆頭に知恵と行動力で事態に立ち向かう弟子たちの活躍は、生き生きと少年らしく時に危なっかしい。
思いもよらない結末の鮮やかさには、うなってしまった。
告訴する者がいなければ裁判にならず、刑も行われないという特殊な事情も生かされている。

守るべきものへの強い想いは、目的のために手段を選ばない空恐ろしさをも抱えている。
そんな闇を秘めたエドワードと、ある意味彼より怖いナイジェルの危うさも魅力的だった。
彼らの暗黒部分を知ってもなお、さらに家族のような愛情を抱く師に、この先の平安を感じる。
すべてを達観しているような盲目の治安判事も良かった。
人物造形の巧みさは、さすが熟練者ならでは。
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2009年07月22日

ジャムの真昼


ジャムの真昼

ジャムの真昼

  • 作者: 皆川 博子
  • 出版社/メーカー: 集英社
  • 発売日: 2000/10
  • メディア: 単行本


戦争が濃い色を落とす、狂気と忘却、残酷と甘美が表裏一体となった作品集。
守られるべきものが淘汰され、禁忌は魅惑、欠いていることで完全を得る。
これを狂気と名付ければ、自分は対岸にいると安心できるだろうか。
『少女戴冠』の扉写真に釘付けになった。
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2008年04月27日

絵小説

絵小説 [単行本] / 皆川 博子 (著); 集英社 (刊)

皆川氏の選んだ詩の一節に宇野亞喜良氏が絵を描き、それをもとにまた皆川氏が物語を創る、という連作コラボレーション。
昔から宇野さんの絵が怖かった。
怖いのにまぶたの裏にいつまでも残っているような。
妖しく暗い華やぎを漂わせる宇野さんの絵と皆川さん・・・なんて似つかわしいんだろう。

少年の叶わぬ恋心は、マネキンとともに波間にさらわれ藻屑となり、少女はゆるやかな絶望を伝説の湖水の底深く託す。
霧にけぶる沼底には、無垢な魂と骸のなごりが沈み、闇の中にうごめくものに、目をこらしてしまう。
献身にひそませた愉悦、鎖骨を飾る銀細工、古い屋敷の地下牢、土塀の影・・・
死の影をひそませたパーツをちりばめ、禍々しく耽美。

これは怪談なのかもしれない。
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2008年02月23日

薔薇密室

薔薇密室 [単行本] / 皆川 博子 (著); 講談社 (刊)

分厚い織物のように、時間軸と語り手、現実と虚構もしくは妄想が幾重にも交差し、大戦下のポーランドを舞台に繰り広げられる、重厚な物語世界。
それは、他国による分断や消滅を繰り返しながら、故国の言葉を失わず、再興を果たしたポーランドという国のとある少女と青年の、純愛の物語でもある。

主を変えつつ、深い森の中に建つホフマン博士の『薔薇の僧院』
ある時は瀕死の若い騎馬士官を薔薇に抱かせ、ある時はツィゴイネルたちの血に染まり、腐食し澱んだ狂気の中、薔薇だけが咲き誇っていた。  やがて僧院は、ワルシャワの陥落とともにドイツ軍に接収されると、ヒムラーの収集する「美しい劣等体」たちの生活の場となる。
下半身の結合した双生児アルベルトとベルンハルト、翼のような貝殻骨を持つエンゲル、27歳の年齢を少年の体に閉じ込めたユーリク、そして28年もの年月、館に囚われ続けたことに気づかずにいたヨリンゲル・・・残酷な狂気は、同じく残酷な美とそれを追求できる権力を持った者を呼び寄せる。
けれども、人を虐げ支配する暗い喜びは、僧院の中だけにあるのではなかった。
狂気が渦巻いていたのはむしろ、塀の外。

ワルシャワに住むひとりの少女、ミルカ。
占領軍により、学ぶことを奪われ、家を奪われ、家族4人地下室に追いやられる。
息をひそめるような日々はさらに、転げ落ちるようにミルカからすべてを奪っていく。
姉は敵士官との交際から自殺、父はテロ主導の疑いで母と共に、運命のように出会いを繰り返してきた少年ユーリクは、ミルカをかばって捕らわれた。
尊敬していた父への不審、母も愛せず、敵士官へのひそかな想いから姉への妬心が捨てられない自分を嫌悪するミルカ。 戦争により運命を狂わされた人たちの縮図のひとつが、ここにある。
二階に住む親切なドイツ人、ナタニエル・ホフマン氏により命を永らえたミルカだったが、それが大いなる罠だったことに気づくのは後のこと。

過酷な運命に揺さぶられながらも、学ぶことを熱望し、命がけでカイを捜したゲルダのようにユーリクを求めたミルカ。子供の体に収まりきらない心を、故国のための蜂起へ昇華させたユーリク。
禍々しい倒錯が散りばめられ、戦争という狂気をはじめ人外の雰囲気満ちる中にあっても、このふたりの絆が強く心に残り、読後感は切ないまでに清々しい。
皆川さんの長篇はやはり、すばらしい。
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2008年01月26日

倒立する塔の殺人

倒立する塔の殺人 (ミステリーYA!) [単行本] / 皆川 博子 (著); 理論社 (刊)

大戦末期のミッションスクールの図書館で少女が見つけたのは、「倒立する塔の殺人」というタイトルの、白紙の本。
それはやがて、過去を共有する目的で次の書き手に渡され、数人で書き綴られてゆく小説となった。
その本を最後に手にした少女は、そこに込められた隠喩と謎の結末を見出す。

書き手を変えながら次々と繋がってゆく物語、というのがおもしろかった。
でもこれ、ミステリーYA!だと思って気楽に構えていたら、けっこう重みがあった。
戦時下で失われる家族、ほのかな想い人、学びの場、自由・・・敗戦を境に、急変する大人。
そんな重苦しい時代を舞台に、少女たちが憧れの上級生を慕い、友と身を寄せ合う学園での時間は、より濃密になっていく。
多くのものが失われる退廃的な雰囲気と、華にもなり毒にもなる独特の美意識がないまぜになって、とても濃い。
少女というのは時として、妙に生々しい。
こういう雰囲気が好きな人には魅力なんだろうなぁ。
後半は、ミステリとしてなかなか緊張感がありましたが。

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2007年11月08日

聖女の島

聖女の島 綾辻・有栖川復刊セレクション (講談社ノベルス) [新書] / 皆川 博子 (著); 講談社 (刊)

先月末に復刻されたというので、どんな本かと。
昭和63年に発行された、怪奇幻想ホラーということでしたが…
雰囲気はむしろ昭和初期。退廃的でどこかグロテスクな色気がある。
愛を求める人から、支配欲に駆られた狂信者へ。
人が壊れてゆく様をのぞき見ているような気持ち悪さはあり。
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2007年04月12日

たまご猫


たまご猫 (ハヤカワ文庫JA)

たまご猫 (ハヤカワ文庫JA)

  • 作者: 皆川 博子
  • 出版社/メーカー: 早川書房
  • 発売日: 1998/01
  • メディア: 文庫



初めて読んだ「死の泉」の重たい雰囲気になかなか手が出せず、なんと6年ぶりの皆川さん。
現在と過去、現実と虚構、死者と生者の間を行き来するような10編は、短編ならではの密度の濃い作品ばかりだった。 幻想的、といってもファンタジックではなく、どこか暗いこわさを秘めたエロスを感じる。
旧家の座敷牢を扱った「朱の檻」、叔母の秘密を受け継ぐ「春の滅び」、「骨董屋」が特に好み。
「骨董屋」の真の姿に気づいた主人公は、訪れるはずの悲劇をどう回避するつもりなんでしょう?
その想像にまた、ぞくり。こういう余韻が楽しい。
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