2022年06月14日

 その花の名を知らず

その花の名を知らず 左近の桜 - 長野 まゆみ
その花の名を知らず 左近の桜 - 長野 まゆみ

前作を読んだのはいつだったか、もう主役近辺の繋がりしか覚えていないまま、夢かうつつかの物語に引き込まれた。
場所も時代も彼岸と此岸の境さえ超えて思わぬつながりに惑わされ、翻弄される桜蔵。
どうめぐっても蛇に導かれる。
一筋縄ではたどれそうにない血縁関係はうやむやのまま、匂わせだけを楽しみました。
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2014年09月10日

 天然理科少年

天然理科少年 -
天然理科少年 -

山間の小さな町に転校した主人公が、その地を去るまでの短い間の物語。

はかないだけに鮮烈。そういう思いや記憶もあるということ。
父はずっと賢彦と同じときを生きていて、その気配を求めてその町にやってきたのかもしれない。
笛は吹かれ、そして岬は記憶の町に誘われた。

時の止まった町は、懐かしさと不思議に満ちている。
少年という季節は、危なげで精いっぱいなのに足りていないのが魅力。
大人たちはその不足もふくめて見守り、導こうとしてくれる。
そうか、苅谷先生ももういないのかと思ったら、すこしさびしかった。

そんな、胸の中がしんと静まり返るような淋しさと、ほのかな温かさに包まれる。
ひっそりと分け与えられたものは、岬をまた少し大人に近づけるんだろう。
親子の間の温度は、このくらいがちょうどいい。
文庫も出てますが、だんぜん単行本のほうがすてきです。
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2014年08月27日

 ぼくはこうして大人になる

ぼくはこうして大人になる (角川文庫) -
ぼくはこうして大人になる (角川文庫) -

すでに子どもではなくまだ大人でもない中学3年の印貝一。
苦心して周囲と折り合いをつけ、可もなく不可もない日々をおくるイっくんのクラスにある日、季節外れの転入生、後藤七月がやってきた。
好意を反発で返す七月が孤立していく中、修学旅行でイっくんや幼なじみの級友を巻き込む騒動が起きる。

これはまあBL要素も多分にあるのだけど、他者との距離をはかりながら、内に外に思考を向けて自分という核を作り上げていく、成長の一コマ。

うまく取り繕ってきた個人的なことだとか、心の奥底にくすぶっていた家族の事情だとか、何気ないふりは他者の反応ひとつで、たやすくグラつき砕ける。
嬉しさや不安を素直に出せるほど子供ではなく、皮肉や仏頂面をまとったり、かといって痛みを心に収めきる大人には寸足らずで。
年を重ねたからといって大人になれるとは限らないけれど、自分をまるごと肯定してくれる大人がいることは、彼らを伸びやかに導くだろう。

人の気持ちなど簡単には読めない、と思うイっくんはまだ、自分の気持ちさえも持て余し気味な未青年だ。
中学3年という年齢を考えれば、それでもずいぶんと大人びた内省の徒ではあるよね。
みずみずしく穂を揺らす青麦のような少年たち。
この透明感、良いです。
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2014年02月10日

 ささみみささめ

ささみみささめ (単行本) [単行本] / 長野 まゆみ (著); 筑摩書房 (刊)

主人公は少女だったり、青年だったり、老女だったり。
オチのある話、酩酊感のある話、思わずニヤリの話・・・人の心の不思議に分け入るような短くもインパクトのある話が25編。

表題の『ささみみささめ』
この不思議な言葉は、身内だけに通用する隠語、ということらしい。
そういう変な繋がりが、家族や身内のおもしろいところ。
他タイトルも、思わずのぞきこんでしまうような意味深なものばかり。

『きみは、もう若くない』、これが最高に好き。
じいちゃん、かっこいい。贈り物を受け取った彼もまた、かっこいい大人になりそうだ。
何度も口の中で転がして、にんまりとした。
続く『それが、真実だ。時間をむだにするな』 思わず娘に言ってみて、嫌な顔をされた。

『春をいただきます!』こんな爽やかなのもいい。
子どもは爆弾。いろいろなものを吹っ飛ばしてくれる。

『ありそうで、なさそうな』長野さんらしいオチ。笑えるのは他人事だから。
でも好きだなぁ、こういうのも。
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2010年08月23日

野川


野川

野川

  • 作者: 長野 まゆみ
  • 出版社/メーカー: 河出書房新社
  • 発売日: 2010/07/14
  • メディア: 単行本


大きく気持ちが揺らぐことがあったとき、そばにさりげない距離の温かさがあるとうれしい。
物言わぬ小動物の体温だったり、否応なく巻き込む大人の親身さだったり、悔しさを卑屈に変えない親だったり。
鳩の巣立ちに少年の先が重なって、すがすがしかった。
美しい情景描写は、吹き渡る風さえ感じられるようだ。
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2009年12月25日

レモンタルト


レモンタルト

レモンタルト

  • 作者: 長野 まゆみ
  • 出版社/メーカー: 講談社
  • 発売日: 2009/10/27
  • メディア: 単行本


主人公はいつも巻き込まれ、ぶっ倒され、そこに必ず偶然の助けが。
でもこの色っぽさと、じれったいほどのほのめかしは好き。
こういう、圧倒的な力関係の差がある間柄・・・そそられまする。
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2009年08月05日

お菓子手帖


お菓子手帖

お菓子手帖

  • 作者: 長野 まゆみ
  • 出版社/メーカー: 河出書房新社
  • 発売日: 2009/06/18
  • メディア: 単行本


1959年8月13日、長野さん誕生の日よりはじまる、お菓子年譜。
成長の年月を追って、当時のニュースや流行ものといった世情やどこそこへ行ったの、こんなことがあったのという個人的な思い出が甘いものとともに語られる。

長野さんと近い世代なので、懐かしいお菓子やおもちゃに思わずひざを打つ。
動物ヨーチ、スピログラフ、デパート地下のお菓子のスタンド、森永ハイクラウンチョコレート、風邪引きの桃缶・・・なんて懐かしい。
育った地域の違いと、ほんの少しの年の差で、かみ合わないところもあるけれど、子供の頃のことを鮮明に覚えているのは、たぶん同じ。
子供時代は不自由だと思っていたけれど、懐かしく思い出せるのは、そこにあたたかい記憶があるからだろう。

たとえその記憶がどんなに幸せでも過去にとどまらず、いつも今を見て先を思う長野さんの生き方が、すてきだ。
「少年アリス」、読んでみよう。
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2009年05月18日

となりの姉妹


となりの姉妹

となりの姉妹

  • 作者: 長野 まゆみ
  • 出版社/メーカー: 講談社
  • 発売日: 2007/03/23
  • メディア: 単行本



奥さん亡き後、残された物のしまい方に頭をひねる酒屋のご主人。
その謎解きに、不思議と絡む縁の物語。

潔癖症からいつの間にか、どこで何をやっているのかわからない怪しい大人に成り果てた兄と、兄嫁、隣の古家に住む姉妹、 姉妹が貸している2階の住人・・・そんな周囲の助けを借りながら解かれていく謎が、言葉遊びのようで楽しかった。
言葉の持つ意味やそこに託された思いをたぐると、思いもよらない縁が結ばれていたり。
そして、転がり出たひとつのことが次々と繋がって、気がつけばいつのまにか落ち着くところに落ち着いて、 終わり良ければというほのかな幸福感も良かった。

兄が良いね。
夫で父という自覚がなく思いつきで行動し、 ある意味どうしようもない大人なのに、ひょうひょうとして憎めないんだなぁ
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2009年04月22日

咲くや、この花

咲くや、この花  左近の桜 [単行本] / 長野 まゆみ (著); 角川グループパブリッシング (刊)

「左近の桜」続編。
成仏しきらぬ魂のため、受験生なのに、なんで自分がうんたらかんたらと思いながら、ついついほだされてしまうのは桜蔵の人の良さでしょうか。
もっとも本人は、あれれと思う間もなくしょっちゅう気絶してしまうので、了解した覚えはないようですが、さりとて嫌悪するでもなし。
そういう体質だからこそ、呼ばれてくるのでしょう。

季節の移ろいが美しい。
桜蔵のまわりはさらに、こちらとあちらの境があいまいになっているようです。
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2008年08月20日

左近の桜


左近の桜

左近の桜

  • 作者: 長野 まゆみ
  • 出版社/メーカー: 角川グループパブリッシング
  • 発売日: 2008/07/24
  • メディア: 単行本



表向きは仕出し料理屋、その実は男ばかりの贔屓筋だけを相手にする宿屋「左近」
十六歳の長男は桜蔵と書いてさくらと読む。
幾種もの桜を植えたその宿には、女将である母、弟の千菊がいて、よそに家庭のある父の柾がたまに遊びに来る。
桜蔵にはそのつもりはないのだが、周囲の言うことには彼は女らしい。
しかも、留守番をすれば客でもない何かを引き込み、荷を預かるはずが身体に蝶を貼り付けられ、妙なものばかり拾ってくる。  
修学旅行先でさえ、ありもしない場所へ迷い込む。
そんな人たちの物語。

夢かうつつか、人か幻か、求めぬままその境を行き来する少年。
描ききらない情景の中に、匂い立つ硬質な耽美。  
小道具にさえ色気があり、言葉も美しい。
姓は望月、屋号は八疋、さて何屋?
十五夜(もちづき)から八疋(はちひき)で七夜(しちや)
こういう洒落っ気も楽しい。
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