![草祭 [単行本] / 恒川 光太郎 (著); 新潮社 (刊) 草祭 [単行本] / 恒川 光太郎 (著); 新潮社 (刊)](https://images-fe.ssl-images-amazon.com/images/I/51bW0hKdt2L._SL160_.jpg)
禁断の野原で、人ではないものに変わってゆく友を見つめる『けものはら』
尾根崎地区の守り神を受け継ぐ少女の『屋根猩猩』
美奥という名の由来ともなる『くさのゆめものがたり』
少女が迷い込んだ先で天化による苦解きを受ける『天化の宿』
とある美奥の女性が、そこを訪れることになるまでの物語『朝の朧町』
不思議な町「美奥」を軸に、少しずつつながりあい、時空を超えて重なり合う物語の中で、たゆたう快感。
この本を読むことができて幸せだった。そう思うくらい好み。
いつもの道の先に、ふと現れる美しくこわい場所。
妖しい魅力に心の重荷をゆだねてしまえば、心地よく取り込まれてゆく。
現実を手放し、時の止まった場所にとどまることを選んだ者もいれば、心を強くして引き戻す者もいる。
生と死の境目さえ不確かな情景の中で、色や音、においと温度、そこに立ち入った人たちの思いだけがくっきりと見える。
初夏の夜に消えゆく友、屋根上の無音の獅子舞、崩壊した町の響く怪物の鳴声、雪の気配の中でかみしめる愛娘のあたたかさ・・・美しく幻想的なのにどこかユーモラスで、どこを読んでもうっとりする。
特に『天化の宿』がすばらしかった。
次々と立ち現れる森羅万象にいざなわれ、めくるめく心地の中で深く自分に踏み込んだ少女は、かさぶたをはがし、膿をかき出して、浄化されていく。
しぐさやちょっとした気持ちの動きを表す言葉が、とてもわかりやすい。
だからどんなゲームなのかさっぱりわからなくても、彼女の心の揺れ動く様をなぞることができる。
迷いや悩みの全くない人生なんて、ありえない。
ならばと、自分の足で困難な現実の中へ戻っていく彼女の後姿がすがすがしい。
表紙絵もすてき。
朱に染まる空の下、植物に抱かれ薄闇に沈む町の家々には明かりがともり、町中を抜ける線路は、山へゆくのか山から来たのか・・・なんとも幻想的で美しい。
装画は影山徹さんによるもの。
『NO.6』の表紙絵も描いていらっしゃる方だった。