2025年12月13日

 ジャガー・ワールド

ジャガー・ワールド - 恒川光太郎
ジャガー・ワールド - 恒川光太郎

太陽神を祀る文明世界が舞台の、壮大な物語。

生贄から逃れ戦士となった少年、亡国の神官の娘、密かに生き延びた王の娘らが、繁栄から滅びに向かう国に翻弄されながら賢くしたたかに生き抜くさまは、とてつもなく魅力的でした。
正しさや悪は価値観や立場によって違うけれど、人がより良いと思う方向へ少しずつでも変わっていくものだと信じたいし、その瞬間をこの物語の中にも見ている気がします。
失われたものは戻らなくとも、受け継がれていくものはある、というような。
一時代の終焉と新たな始まりを予感させる、静かな熱量に圧倒されました。
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2023年02月17日

 浮遊

浮遊 - 遠野遥
浮遊 - 遠野遥

年の離れた恋人のマンションで、夜ごと悪霊に追いかけられるホラーゲームに興じる女子高生。
不自由ないものの人目を避ける暮らしに、時折父親から妙に気を使ったlineが届く。
出かけた先の絵馬やゲーム進行に思わせぶりな言葉を忍ばせつつ、事情も心情も、ぼんやりとした想像の中にしかない。
これはいったいどういう物語なのだろう、何を見せられているのかと戸惑いつつ、読んでしまう。
誰ともぶつかり合うことなく、口にできない思いは言葉を変えて、穏やかに過ぎる日々。
なんだか不気味だ。
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2022年08月01日

 化物園

化物園 - 恒川光太郎
化物園 - 恒川光太郎

同じ化け物に連なる何編か、特に緑目のリュク物語が印象的だった。

虎や猫、さらには人を導き観察する者へと化けながら、知性も複雑な感情も持ち合わせた化け物は、異なる種族でありながらとても人間くさい。
折に触れリュクの人生に関わってくるのは、持たざる者、ある種異形の彼に惹かれたからかと思う。
人の世に紛れて長く長く生き、わが身を滅ぼすかもしれない人間に近づきすぎた化け物には、もの悲しささえ覚える。

心を無くせば人もまた人ではなく、ならば化け物と呼ばれるものもまた。
そのあいまいな境界を行き来する世界観がとても好きです。
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2020年10月23日

 真夜中のたずねびと

真夜中のたずねびと - 恒川光太郎
真夜中のたずねびと - 恒川光太郎

当たり前だと思っていた日常が、実は災害や事故、悪意、暴力といった落とし穴だらけの道をうまく歩いてこれただけに過ぎなかったんだと、気づかされるような5編。
ゆるく繋がる部分もあり、あのときのあの子がとほっとする場面も。

養うことを放棄されたり、存在しない者として扱われたり、犯罪者の家族として追われたりして、安心して生きられる場所を得られなかった少年少女たち。
そんな環境でも闇に呑まれず自力で生きる彼らの強さが、残酷な悪意を切り裂いていくようだ。
明るい話ではないし残酷で恐ろしい部分もあるけれど、寄る辺ない夕闇をやり過ごし、真夜中の沈黙を耐えたなら、夜が明けることを許されてもいいと思える。
生還、おめでとう。
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2019年09月03日

 白昼夢の森の少女

白昼夢の森の少女
白昼夢の森の少女

おおむねホラーや怪談をテーマに様々な媒体で書かれた短編集。

夢と現実、過去と未来、畏れと安らぎ、生きていることとそうでないことさえ、その境目はあいまいで、時に侵蝕し混じり合う。
渡ってしまえば戻ることは叶わないけれど、それが幸せなのか不幸なのかもわからない。
繰り返し再生するもの、滅ぶもののどちらにも、美しさはある。

懐かしい匂いを湛えた夏の夜の山奥でのできごと『古入道きたりて』が抜きんでて好みだけれど、街中を覆い尽くす植物に取り込まれる緑人の表題作、夢現の物語『布団窟』も印象的。
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2018年07月20日

 滅びの園

滅びの園 (幽BOOKS)
滅びの園 (幽BOOKS)

悪いことの起きない夢の国のような町に迷い込んだ男は、そこで妻や娘と平穏に暮らしていたがやがて元いた地球から手紙が届くようになる。
〈未知なるもの〉が突然現れ、増殖し続けるプーニーという生物の脅威にさらされていること、そして世界を救うことができるのは、なぜか〈未知なるもの〉に取り込まれた男がその核を壊すことだという。

世界平和のために、幸せな暮らしを壊すことができるのか。
たとえそれがまがい物だとしても。

プーニー耐性を持ち闘う女性がカッコよかった。
SFアニメを見ているような、はじまりと終わり。
いつも空にあった〈未知なるもの〉が無くなった日の空気感が何とも言えない。
みんなそれぞれの立場で闘ったり、ただ生きたりしていただけ。

なんだか男が哀れだなぁという気がしてしまう。
望んでそんな立場になったわけでもないのに。
戻ってこれなかったほうがむしろ幸せだったろうに、物語は残酷だ。

幸せって何でしょうね。
くだらないことで友達と笑い合ったり、何かができたりできなかったり、ご飯がおいしいと思ったり。
そういう何でもないことが普通にできるってことが、一番幸せなんじゃないかなーと。
ああでも明日も今日と同じ日が来るとは限らないんだ。
それに気づかないように生きている気がします。
なんてことを考えました・・・これ、物語の感想か?まぁいいや。
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2008年12月28日

草祭

草祭 [単行本] / 恒川 光太郎 (著); 新潮社 (刊)

禁断の野原で、人ではないものに変わってゆく友を見つめる『けものはら』
尾根崎地区の守り神を受け継ぐ少女の『屋根猩猩』
美奥という名の由来ともなる『くさのゆめものがたり』
少女が迷い込んだ先で天化による苦解きを受ける『天化の宿』
とある美奥の女性が、そこを訪れることになるまでの物語『朝の朧町』
不思議な町「美奥」を軸に、少しずつつながりあい、時空を超えて重なり合う物語の中で、たゆたう快感。
この本を読むことができて幸せだった。そう思うくらい好み。

いつもの道の先に、ふと現れる美しくこわい場所。
妖しい魅力に心の重荷をゆだねてしまえば、心地よく取り込まれてゆく。
現実を手放し、時の止まった場所にとどまることを選んだ者もいれば、心を強くして引き戻す者もいる。
生と死の境目さえ不確かな情景の中で、色や音、においと温度、そこに立ち入った人たちの思いだけがくっきりと見える。
初夏の夜に消えゆく友、屋根上の無音の獅子舞、崩壊した町の響く怪物の鳴声、雪の気配の中でかみしめる愛娘のあたたかさ・・・美しく幻想的なのにどこかユーモラスで、どこを読んでもうっとりする。

特に『天化の宿』がすばらしかった。
次々と立ち現れる森羅万象にいざなわれ、めくるめく心地の中で深く自分に踏み込んだ少女は、かさぶたをはがし、膿をかき出して、浄化されていく。
しぐさやちょっとした気持ちの動きを表す言葉が、とてもわかりやすい。
だからどんなゲームなのかさっぱりわからなくても、彼女の心の揺れ動く様をなぞることができる。
迷いや悩みの全くない人生なんて、ありえない。
ならばと、自分の足で困難な現実の中へ戻っていく彼女の後姿がすがすがしい。

表紙絵もすてき。
朱に染まる空の下、植物に抱かれ薄闇に沈む町の家々には明かりがともり、町中を抜ける線路は、山へゆくのか山から来たのか・・・なんとも幻想的で美しい。
装画は影山徹さんによるもの。
『NO.6』の表紙絵も描いていらっしゃる方だった。
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2007年11月25日

秋の牢獄

秋の牢獄 [単行本] / 恒川 光太郎 (著); 角川書店 (刊)

『夜市』を凌ぐ・・・この帯に期待満々。とても楽しみにしていた。

十一月七日を繰り返す人たちの物語『秋の牢獄』、一定期間ごとに全国各地に出没し、代わりが来ない限り出ることの叶わない神の家の主にされてしまった男の『神家没落』、イメージを現実化して見せる能力を持つ少女の数奇な運命『幻は夜に成長する』の3編。
時の狭間に、現実と異界を行き来する家に、望まず持ち得た特別な力・・・どこかや何かに囚われた人たちの物語。
思いがけなく日常から切り離された人たちの、戸惑い、恐怖、絶望、虚無。
何にも影響せず影響も受けない、そんな生をどう捉えればいいのか。

時空の狭間に落ち込んだり、転々とするマヨイガの物語は少なからずあるけれど、これには、やがて訪れるだろう崩壊の兆しがひたひたと浸食してくるような怖さ、受け入れてなお止まない寂寞感がある。
そしてとても完成された印象を受ける。何とも言えず、魅力。
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2006年12月30日

雷の季節の終わりに

雷の季節の終わりに [単行本] / 恒川 光太郎 (著); 角川書店 (刊)

地図に載らない異世界の小さな町・穏には、冬と春の間に雷の季節がある。 賢也は、姉を失ったその時期から「風わいわい」がとり憑いていることを隠しひとりで生きていたが、ある事件に関わったことから穏を追われ、外の世界へ出て行くことになった。

穏という小さな町が成り立っていくために必要とされた、一部の者しか知らない秘密。
それが少しずつ明かされていくあたりがぞくぞくと良かった。
「風の古道」にも通じる、マヨイガのような世界。
陽炎のように映りこんだ現世の一部を、天上人の住処と信じているように、残酷で美しい。
そしてそこからはみだしてしまった賢也は、邪悪なものに立ち向かっていくのだが、今を自分を肯定する力強さっていうのがいいね。そういうたくましさは、穂高や茜にも。
綺譚風少年成長記という味わい、なかなか良いです。

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