2021年08月30日

 琥珀の夏

琥珀の夏 (文春e-book) - 辻村 深月
琥珀の夏 (文春e-book) - 辻村 深月

学校とは違うトクベツな場所。そこでできた友達との忘れがたい日々。
駆け引きがあったり気づかないふりをしたり、うらやんだりあきらめたりと、子ども同士の力関係は大人と変わらない。
その寂しさも痛みも、自分のことのように伝わってくる。

ノリコにとっては通り過ぎてきた場所に、30年経ってもミカは立ち続けていた。
なぜそれを自分の子どもにも与えるのか。
あの場所は、どういうところだったのか。何があったのか。
小さな娘を愛おしく思いながら、自分のために働きたいと思う、どちらも本当のどうしようもない気持ち。
同じ母親としての葛藤がミカにもと想像するノリコ。
この追い詰められていく描写がとてもリアルだった。

でもミカの真実はもっと残酷で。
大人に押しつけられた言葉はミカを縛り続け、置き去りにした。
本当は無かったことにされた少女が一番かわいそうなのだけれど、ゆっくりと回復するように変わり始めたミカを見守りたい気持ちになった。
揺るぎない芯を持つシゲルがきっとミカの軸となってくれることでしょう。
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2019年09月16日

 傲慢と善良

傲慢と善良
傲慢と善良

結婚式を間近に控えた婚約者・真美が突然行方不明に。
ストーカーの存在を匂わせていた彼女の身を案じた西澤は、その行方を追って婚活をしていたという彼女の過去を遡っていく。

主軸は結婚。
だけれど、あぶりだされるのは結局それぞれの生き方なのだと思う。
子の幸せを願っているつもりで自分の価値感を押し付けるばかりの親、それに甘んじて考えることをしてこなかった娘、ある意味善良ながら想像力に欠ける男。
思いや覚悟が過剰すぎたり足りなかったり、他人からは丸見えなのに自分では気づけなかったりする。
言い訳や責任転換、どうして〇〇してくれないのと口には出さずとも要求ばかり。
他者を許さない傲慢と、善良な無関心、どちらがより相手を傷つけるだろう。

けれど真美が自分の足で立ち、決めて、動くようになると、景色は一転する。
こんなところにこんな人がの発見もあり、それも含めてみんな頑張ってるんだなと思う。
女性がたくましいんだよね、そこがとても好ましい。
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2019年07月10日

 すきって いわなきゃ だめ?

恋の絵本 (2) すきって いわなきゃ だめ?
恋の絵本 (2) すきって いわなきゃ だめ?

辻村深月・著 今日マチ子・イラスト 瀧井朝世・編集

恋の絵本、第2弾。
辻村深月×今日マチ子なんて、読む前から気に入ることはわかっていたようなものですが。
うわぁなんだこれ、いいなあ。

こうくんの何気ない男前な言葉に、撃ち抜かれそうになりました。
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2018年08月28日

 噛みあわない会話と、ある過去について

噛みあわない会話と、ある過去について
噛みあわない会話と、ある過去について

そこいらにありそうな話なんだけど、うかうかすると深手を負います。ぐっさりと。

子どもだったから、そんなつもりじゃなかった、悪気はなかった。
でも本当は、見下していた。高をくくって軽んじて、あざけっていた。
自分がそうだったことにさえ気づかずに。
『パッとしない子』も『早穂とゆかり』も、程度の差こそあれありがちな話で、だからこそまるで自分に向けて言われているような居心地の悪さがあります。

自覚がない、というのは怖いね。
容赦なく叩きのめされてもなお、自分の非を顧みることはない。
そんなに悪いことした?自分だけが悪いの?だって本当のことを言っただけ。
そんな黒さが自分にはないと言えるかどうか・・・

あるいは『ママ・はは』のように、親子という絶対的力関係の中で生じるズレ。
正論でむしろ良かれと思っているだけに、やっかいだし救われない。
正しさを押し付けられることが、どれだけ苦しいか。知ってる知ってる、その気持ち。
それでもこの取り返しのつかない結末、それを強く願う気持ちは、少し恐ろしい。

心の深みを暴いて言葉にして引きずりだしてしまう、これは怖い本です。
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2018年06月24日

 青空と逃げる

青空と逃げる (単行本)
青空と逃げる (単行本)

夫を探す人たちから逃げるため、友人を頼って夏休み中の息子と二人、四万十へ身を寄せた早苗。
けれどそこも追手に見つかり家島へ、そして別府へ・・・

逃げ続ける先々で出会う人たちが、何しろ温かい。
見るからに事情のあるよそ者に対して、興味本位や疑心からながめることなく、時には見て見ぬふりをしながら手を貸し、時には踏み込んで叱ってくれる。
これまで経験したことのない状態の中で、自分に何ができるのか自信もなく、けれど息子を守らなくてはと自分を奮起させる早苗にとって、どれほど心強かったかと思う。

その土地に根付いて生きると決めた人たちには覚悟がある。
それに優しく背中を押され、いくつになっても人はたくましく変わっていけるのだなと思う。
やわらかく響く土地土地の言葉も優しい。
特に砂かけさんと仙台の写真館の章は、それだけで一つの物語のように沁みた。

どうなることかと危ぶんだ結末は明るく、早苗に重くのしかかっていた問題も消えた。
誰もが良い人で、何かしらを背負うほど強く温かい。
辛い時には逃げてもいいし、困っていたら助けを求めればいい。生きてさえいれば。

という、いい話だったんだけどなぁ・・・息子と父親、何で隠す必要があったのか、どうもしっくりこない。
母親一人が空回りしてるみたいで、なんかムズムズする。のが残念。
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2017年07月20日

 かがみの孤城

かがみの孤城 -
かがみの孤城 -

"オオカミさま"によって鏡の向こうの世界に呼ばれ、居場所である城と願いが叶う鍵探しの権利を与えられた7人の中学生たち。
それぞれ事情を抱え学校へ行けなくなっていた彼らの、3月30日まで期間限定の交流が始まる。

主人公は嫌がらせを受けて学校に行けなくなった中学1年のこころ。
学校に行けない自分を異質と思う現実世界と、みんなが同じような立場でそれを肯定さえされる異世界。
そのふたつを行き来しつつ揺れ動く彼女の気持ちに、共感したりはらはらしたりと揺さぶられた。
「普通」とか「あたりまえ」という言葉って、すごく重いもの。

特に中学生って、不平等も理不尽もあると割り切れるほど大人ではなく、誰かに泣きつけばいいと甘えられるほど子供でもない、一番不安定で不自由な時。
それを乗り越えるにはやはり、自分をわかってくれると思える大人の助けが必要なんだと思う。

実際にはそう簡単なことじゃないかもしれない。
加害者、傍観者、教師、親たちすべてをひっくるめて、誰が悪いと言い切れない部分があって。
自分が大人になるしかない、そういう強さを手に入れるしかないと、本当は思ってる。
でもきっと大丈夫。
進む道に正解はひとつじゃないし、わかってくれる人は必ずいるから。
今は前に進めなくても、時には逃げてもいい、自分をあきらめないで。
そんなメッセージに気持ちが熱くなります。

少年少女の成長譚、ファンタジー要素とともに、謎解きもあります。
7人がどういう繋がりなのかは早い段階で何となくわかったけれど、ワケありだなと感じていた喜多嶋先生、"オオカミさま"の正体の謎にわくわくしました。
ひりひりするような痛みもあるけれど、読後感はすばらしく良かった。
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2015年10月16日

 きのうの影踏み

きのうの影踏み (幽BOOKS) -
きのうの影踏み (幽BOOKS) -

ひやりとしたり、何となく厭な気持ちが残ったり、ぞっとしたり、追い詰められたり。
怖いことというのは、実は日常と隣り合わせ、もしかしたら今いるここにもあって、ただ気づかずに済んでいるだけのこと。
ちょっとした掛け違えやはずみで、ここじゃないどこかに簡単に引き込まれてしまう。
『Mei』『怪談実話系』初出中心の13編は、そんな印象。

でもただ怖いというのじゃなくて、人と人、あるいは人ならぬ何かとの間にある強い思いに、気持ちを揺さぶられる話が多かった。
特に、小さな子どもに向けられる眼差しはまさにお母さん目線で、失われたものへの慈しみに満ちたあたたかさが伝わってくる。
それと同時に、子どもにある危うさとか、得体のしれない漠然とした怖さ、というのもまざまざと。

どの話も好みだけれど、中でも『だまだまマーク』が怖くて切なかった。
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2015年09月13日

 朝が来る

朝が来る -
朝が来る -

幼稚園で息子が友達とトラブルになる・・・そんな始まりの物語が、こんな胸を締め付けられるエンディングを迎えることになるとは、想像もできなかった。

養子縁組を決めた夫婦と、特別養子縁組の仲介団体のもとに身を寄せた少女。
そしてそれぞれの親。
親であっても誰かの娘や息子で、血のつながりが必ずしも幸せの証しとは限らずむしろ、避けられない重みとなることもある。
血縁、親子という言葉は、良きにつけ悪しきにつけ免罪符になりやすい。
もちろん親や母というものに正解はないし、生まれ育った環境や性格によって、子供に向き合う姿勢や距離感はそれぞれだ。
誰だって試行錯誤で育てていくしかないのだから。
けれど、親が子どもをそれと気づかず傷つけることがいかに多いか、思い知らされる気がした。
多くの場合、愛情がないわけではないのに、というのが業の深いところなんだな。

子にしてみれば、大人であっても、親からの心無い言葉や仕打ちはこたえる。
自分が大切に思われているという期待があるから。
まだ子供に近い少女がどれほど傷ついたかと思い、その後の転がり落ちていくような人生が痛ましくてならなかった。
でもちゃんと手をさしのべてくれる人もいるんだよね。
大人の多くは、幼い若い人たちの幸せを願っているのだもの。

朝斗の両親のお互いを思いやり信頼する姿、毅然とした強さが清々しかった。
確かにひかりは未熟だったし、取り返しのつかないこともあるけれど、幸せになってほしい・・・
明けない夜にもようやく光がさしかけたかと思える予感に、胸が詰まりそうになった。
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2013年06月30日

島はぼくらと

島はぼくらと [単行本] / 辻村 深月, 五十嵐 大介 (著); 講談社 (刊)

他所から人を入れることで活性化を図ってきた冴島には高校がない。
毎日フェリーで本土の高校に通い、4時には帰ってくる4人の高校生と、彼らをとりまく大人たちの物語。

少年少女たちがみずみずしく、さわやか。
自分の進みたい道、やりたいことは何なのかを模索する年頃なりの悩みや屈託はあるけれど、島の狭さや不便さを厭うこともなく、のびやかだ。
さらに、いろいろな事情で島に渡ってきた人たちを、温かく迎え、それとなく支える島の大人たちの、清濁併せのむたくましさといったら。
早ければ中学を卒業する15で島を出ていく、そんな親の覚悟が子どもたちを早く大人にするのかもしれないね。
そうなんだよ、大人が子どもにしてやれることなんて、覚悟するくらいのものなんだ。

おばちゃんたち、たくましいなぁ
そういうもの、として受け入れていく強さは、何にも替え難いもの。
ヨシノさんも魅力的だった。この人の物語ももっと読んでみたかった。

17歳というまぶしい時期のちょっとした冒険、そして異性に向ける淡い想い、友達への強い願い。
魅力的な、ほのぼのとした謎もあります。ついでにおなじみのリンクも。
これまでの、どこか陰を抱えた少年少女たちとはまったく違うタイプの明るさが、新鮮。
いつか、大人になった彼らがこの島をどう変えていくのか、見守りたい気持ちになる。
朱里の源樹がどうなったのか、っていうのも実は気になってるんだけどね。
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2013年04月30日

鍵のない夢を見る

鍵のない夢を見る [ハードカバー] / 辻村 深月 (著); 文藝春秋 (刊)

どうしてこんな男に引っかかっちゃうんだろう?
それはあなたがそういう人だからだよ。
と言ってやりたいような女の心の動きを生々しくあばきだした短編集。
でもまったく共感できないかというとそうでもない嫌らしさに、目が離せなくもある。

最初の、りっちゃんの話が良かった。
はい上がってきた彼女にエールを。

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