
荒野
- 作者: 桜庭 一樹
- 出版社/メーカー: 文藝春秋
- 発売日: 2008/05/28
- メディア: 単行本
鎌倉の古い家で、恋愛小説作家の父と小さい頃から一緒にいてくれた住み込みのお手伝い・奈々子さんとの3人暮らしをしていた山野内荒野12歳。
私立中学の入学式の日、電車で助けてくれた同級生・神無月悠也はなぜか、荒野の名前を知ったとたん嫌悪の目を向けられる。
後日、荒野の家に悠也とその母が、新しい家族としてやってきた。
男と女、大人と子ども、家族、親子・・・女好きを仕事の糧にしているような父と、彼をめぐる人たちの間で過す多感な荒野の、12歳から16歳までの物語。
もとはファミ通文庫で出ていたものらしいが、たぶんそれだと目にとまらなかったと思うので、こういう形でまとめられて良かった。
父の結婚のよる新たな母の出現。しかもそれは同級生の母親で、形ばかり兄弟となった彼に対して抱く思いは、家族という名の壁にゆるやかに阻まれる。
けれど阻まれ、自ら距離を置きながら、ゆっくりと育っていく想いを見ていくのは、とてもほほえましいことだった。
妻の出現によって居場所を追われた奈々子さん、彼女がとても好きだったな。
実際は荒野の母であり姉であり友だちだった奈々子さんが、人に触られることを恐れる荒野をそのまま受け入れていたのは、決して無関心だったからではないだろう。
男と女のことは仕方ない。子どもは親の都合で母さえも奪われるのだ。
女であることを悟られずに女であり続けた彼女が、身を引く様がとても寂しかった。
反面、荒野にずけずけ立ち入ってくる蓉子さんが、最初は憎らしかった。
けれど、蓉子さんはあくまで大いなる母だった。
その力強さにいつしか荒野も、ゆったり抱え込まれていったのだろう。
ゆったりと続いていく人を想う気持ちは、とても不確かで、そのくせ強靭だ。
相手を思う気持ちがつながりあって、そこに家族という名がつくということか。
大事に守られ、手をさしのべられていた少女もやがて自分という位置を決め、人を迎え入れる場所となる。
人の営みの生き生きとした様が、とても良かった。