2010年06月09日

和菓子のアン


和菓子のアン

和菓子のアン

  • 作者: 坂木 司
  • 出版社/メーカー: 光文社
  • 発売日: 2010/04/20
  • メディア: 単行本


進学も就職もピンと来ないまま、とりあえずはとデパ地下の和菓子屋で働き始めた梅本杏子。
個性的な同僚や上司に囲まれ、奥深い和菓子の魅力に引き込まれていくが、日々はささやかな謎の連続だった。

和菓子屋を舞台にしたミステリ。
主人公は、体型を気にするおおらか娘。
バックヤードで豹変する店長、同僚はイケメンのオトメンと、楚々とした元ヤン。
個性的というか、わかりやすい役柄を振り当てられたような面々に、和菓子屋が舞台とはいえ甘々だなあと思ってしまう。
でも、和菓子や販売に関わる謎は、時に残念な結末も導くけれど、奥深くて遊び心にあふれ、とても魅力的。
きれいなだけじゃない和菓子というものに、主人公同様、引き込まれた。
個人の店ではなく、デパ地下に入っている店というのも、広がりがあって良かった。
こういう物語を読むと、売る側だけではなく、買う側もいい客でなければお店は育たないんだなぁと思わせられる。

装幀の色使いが美しい。
外がなでしこ色で内が金茶、しおり紐は淡い若草色。
春らしい色使いだ。
posted by てまり at 00:00| Comment(0) | TrackBack(0) | 坂木 司 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2009年02月10日

短劇

短劇 [単行本] / 坂木 司 (著); 光文社 (刊)

ブラックユーモアに彩られた短編集。
ホラーに類するアングラなものやSF風もあり、たぶん今までの「一生懸命」「いい人」タイプが好みの読者は気味悪く思うかもしれないが、私はかなり好みだった。
今までにない多様な坂木作品で、正直、こういうものも書けるのかと驚いた次第。

個人的には、『穴を掘る』が一番。
夢を抱きつつ、深い穴の底から頭上はるかの月を眺める男という絵が、とても印象的だった。
posted by てまり at 00:00| Comment(0) | TrackBack(0) | 坂木 司 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2008年04月18日

シンデレラ・ティース

シンデレラ・ティース [単行本(ソフトカバー)] / 坂木 司 (著); 光文社 (刊)

子ども時代の治療経験から歯医者嫌いになっていたサキが、大学二年の夏休みの間、叔父の勤めるデンタルクリニックで受付のアルバイトをすることになった。
個性的なスタッフに温かく見守られながら、歯科治療の内情や患者さんの大小のトラブルに関わりつつ、歯科恐怖症を克服していく、連作短編。

歯軋りを隠して恋人との間がぎくしゃくしている女性、口臭を気にする男性、患者を装った業界人、クリニックでお姫様扱いの少女・・・
患者(このクリニックではお客様、ですが)に関わる歯科医師、歯科衛生士、歯科技工士たちがプロとして関わる中、見えてくる患者の不思議な行動の意味。
その謎解きと並行して、少しずつ温められていく歯科技工士・四谷とサキの関係が初々しい。
受付という業務の中でも、自分にできることを考え、工夫し、時には叱られてしょげたり、勘違いして落ち込んだりもするけれど、明るくがんばろうとするサキがいいね。
ところどころリンクしている「ホテルジューシー」のヒロちゃんとの性格の違いも見えて、おもしろい。
なるほど、ガンガン行くヒロちゃんに比べて、サキはおっとりタイプだね。
肝心の四谷さんのイメージが、今ひとつくっきり感じられなかったけれど、姉御肌の歌子さんをはじめ、スタッフが文字通りサキを見守っている温かさにあふれて、ほのぼの。
治療についてきちんと説明してくれるだけで、いい歯医者だと思う現実の中、物語ならではの夢のような温かさに加え、恋の始まりの気恥ずかしさも心地良かった。

posted by てまり at 00:00| Comment(0) | TrackBack(0) | 坂木 司 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2008年04月15日

先生と僕

先生と僕 [単行本] / 坂木 司 (著); 双葉社 (刊)

押されれば流されるお人好しの大学生・伊藤二葉は、中学生の瀬川隼人に「家庭教師を演じる人」としてスカウトされる。建て前とは反対に隼人が先生となって二葉にミステリの初歩を手ほどきする一方、隼人が探偵役、二葉が助手として日常に潜む謎を解く。

書店で、電話番号の付箋がつけられた雑誌の謎「先生と僕」
ボヤ騒ぎの起きたカラオケで、二人の女子高生が行方不明になる「消えた歌声」
区民プールで見かけた、役所員風の男の奇妙な行動「逃げ水のいるプール」
ギャラリーの絵に惹かれる二葉に、隼人が店の真意を明かす「額縁の裏」
ネットで見つけた犯罪を匂わせる書き込みに、ペットショップで張り込む「見えない盗品」

犯罪がらみ、もしくはグレーゾーンの謎に、頭脳明晰で二葉よりよほど世事に長けた隼人があっさり解いてみせる、坂木さんらしい連作短編。
なにをどうしても、「いい人」の話から抜けられないところが坂木風なんだけど、今回はそれが嫌味になることもなく楽しめた。
気弱で無知で怖がりな二葉にも、瞬間記憶力という特技があって卑屈じゃないし、考えようによっては、かなりこまっしゃくれて嫌味なガキに見えそうな隼人も、ミステリファンということでいいイメージが持てたからかな。
といっても中学生だから、「見えない盗品」の、探偵ごっこが一番自然でおもしろかった。
あと、隼人が紹介する怖くないミステリ、翻訳物は未読なので、いずれ読んでみたい。
事件そのものより、このチョイスが興味を引いた感も。
考えてみれば坂木作品自体、「怖くないミステリ」なのでした。
posted by てまり at 00:00| Comment(0) | TrackBack(0) | 坂木 司 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2008年03月16日

ホテルジューシー

ホテルジューシー [単行本] / 坂木 司 (著); 角川書店 (刊)

夏休みに沖縄の民宿でアルバイトをすることにした大学生のヒロは、先方の都合でホテルジューシーへ。
そこにいたのは、夜は冴えているのに昼行灯のオーナー代理、掃除担当のクメばあとセンばあ、沖縄料理の得意な比嘉さん・・・大家族育ちで貧乏性のヒロは、何につけ大雑把でいいかげんな彼らや、やってくる訳ありな客に振り回されながら、つい手を出し口を出し、世話を焼いては奮闘する。

しっかり者、だけどまだまだ子供なヒロちゃん。
器用に上澄みだけをすくっていけない、生真面目で頑張り屋なところは好きだけど、何に手を出すのも、自分が納得できないから、というところが幼いなぁと。
「越境者」の女の子ふたりに対しても、ずかずか踏み込むことがいつもいい結果を生むとは限らない。
ついでに言うなら、その原因に周知の事件を持ってくるのは、ちょっと嫌な気分だった。
「正しいこと」はひとつじゃなくて、自分のものさしだけで人の行動の正誤を計ろうとするのはおこがましいというか、上から目線だよなぁと危惧していたら案の定「≠(同じじゃない)」で暴発。
これ、「事情も知らずに勘違いして暴言を吐いた」ことを後悔しているけれど、そもそも、客と従業員程度の面識しかない相手にいきなりこんなこと言いますかね・・・
助けるよりも、傷つけないことに心を配る人の方が好きだな。
ちょっとお説教したくなっちゃいました。
たぶん私自身が、「まぁいっかー」の人だからでしょう。
その点、清濁併せ呑んで長い間生きてきたおばあたちは、そんな幼さも含めてヒロちゃんを暖かく見ていて、さすがだなぁ、おばあたちのおおらかさが何よりこの物語を暖かくしているなぁと。

どうしてもちくちくと気になってしまう点はあるんだけど、全体的には今まで読んだ坂木作品の中では一番良かった。
ヒロちゃんも力の抜き方を少し覚えたようだし、失敗してもまたがんばればいい。そう思える明るさがあった。
沖縄の地に生きる人たちのおおらかさ、したたかさがじんわりと伝わってきて、しかも食べ物がとてもおいしそう。
先に出た「シンデレラ・ティース」は、ヒロちゃんのお友達編らしいので、こちらも楽しみ。
posted by てまり at 00:00| Comment(0) | TrackBack(0) | 坂木 司 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2006年05月06日

切れない糸


切れない糸 (創元クライム・クラブ)

切れない糸 (創元クライム・クラブ)

  • 作者: 坂木 司
  • 出版社/メーカー: 東京創元社
  • 発売日: 2005/05/30
  • メディア: 単行本


父の急死によって、それまで考えもしなかった家業のクリーニング店を継ぐことになった新井和也。
ベテランのシゲさんたちに助けられながら、少しずつプロの仕事を覚えていく一方、お得意様回りを通じて出会った難問を同級生の名探偵・沢田直之の助けを借りて 解き明かし、商店街を軸とした暖かくも強い人と人との絆を築いていく。

自分の仕事に誇りを持っているプロというのは、ほれぼれするなぁと思う。
和也のお父さんやシゲさんのような技術屋さんが、納得のできるいい仕事ができる環境というのも、今やなかなか得がたい。それは、人と人とが関わって、 お互いの信頼関係の上に成り立つものだから。
そういうべたな関係をわずらわしく感じていた和也が、仕事を覚え、人に助けられ、また手助けしていくうちに、親や家業、商店街を軸とした地域、 ひいては自分にも誇りを持てるようになっていく過程が、暖かく描かれている。
そしてそんな和也の変化が、自分より大人びて敵わないと感じていた直之にも影響を与え、それぞれの希望に満ちた旅立ちの物語ともなっている。
謎解きもおもしろいが、それ以上に若い二代目を育てていこうとする周囲の人たちの暖かいまなざしと、それに応えられるようになっていく青年の伸びやかさが良かった。 若いっていいよねぇ
posted by てまり at 00:00| Comment(0) | TrackBack(0) | 坂木 司 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする