2019年06月17日

 中野のお父さんは謎を解くか

中野のお父さんは謎を解くか
中野のお父さんは謎を解くか

『小説文宝』の編集者・美希の父は、古書店巡りが趣味の高校国語教師。
美希が仕事上、日常で解けない謎にぶつかると、それを土産話に『コタツ探偵』に知恵を借りに行く、中野のお父さん続編。

お父さんの体調に不安材料が見つかるあたりがちょっと心配だけれど、娘が好物の謎を携えて顔を出してくれるとなれば、頭も口もつるつると回ります。
実在作家にまつわる裏話や因縁は深すぎて、ちょっと置いて行かれるほどですが、それだけお父さん、ひいては作者ご自身にとって興味を惹かれることだったのでしょう。
翻訳の妙や当て逃げの意外な犯人といった軽めの謎解きも、鮮やか。
年を重ねた親子でこんな会話ができたら、楽しいだろうなぁ

本の読み方はそれぞれでひとつの正解はない、それが本の値打ちだ、と。
読み取り方に正解を求める国語に反発し、『100万回生きたねこ』にどうしても感動できなかった身としては、許された思いのひとコマも。

まだまだ読むべき本があると思い、どれだけの本が読めるだろうかとも思う。
お父さんの探偵ぶりはもちろんですが、美希自身のプライベートにも変化が期待できそうで楽しみです。
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2018年04月03日

 ヴェネツィア便り

ヴェネツィア便り -
ヴェネツィア便り -

謎解きとまでは言わないまでも、ああそういうことだったのかとわかる瞬間の、目を見ひらくような鮮やかさだったり怖さだったりを切り取った短編集。
本や編集にまつわる話も多く、いろいろな北村風が楽しめます。

追い詰められる怖さにぞくぞくとし、年を重ねた夫婦や家族の逸話になごみ、受け継がれる不思議にうたれました。
中でも「ほたるぶくろ」、こういうタイプがやはり好きだなぁ

表題は30年後の自分へあてた手紙への自分語り。
自由で不安に満ちていた若い自分へ向ける、いろいろあってもこうしてここにいるから、大丈夫だからしっかりここまで歩んで来なさいというはなむけの言葉が、あたたかい。
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2017年04月19日

 遠い唇

遠い唇 -
遠い唇 -

何十年ぶりかに解けた、今は亡き先輩の遺した暗号 『遠い唇』
国語の先生だったご主人が闘病中に残した俳句の謎かけ 『しりとり』
『八月の六日間』の主人公が、自分自身の今とその先に思いめぐらす 『ゴースト』
『冬のオペラ』から18年後、姫宮あゆみが目撃者となった事件 『ビスケット』
他2編の、謎解き短編集。

知的な謎も魅力的だが、何より主となり背景となる人の営みや心情に惹かれます。
特に最初の2作品は、たまりませぬ。
遺された物に込められた想いをくみ取るのは、時を超えて答を引き寄せること。
それでも答合わせをする相手はすでにいないという、このほろ苦い切なさ。
来し方の忘れ物をひとつずつ拾いに行くような、しみじみとした思いに駆られます。

『ゴースト』は、最近『八月の六日間』を読んだところだったので、あの時期のあの人の・・・とイメージできてラッキーでした。
そうでなければよくわからなかったかも。
その点『冬のオペラ』はかなり以前なので、前作での事件については再読の要ありのようです。
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2017年01月26日

 八月の六日間

八月の六日間

休みをねん出しては山へ向かう、女性編集者の物語。
久しぶりに北村作品を読んで、ああやっぱりいいな、好きだなぁと思った。

あいにく山歩きの経験がないので、登はんの苦しさや喜びは行間から想像することしかできないのだけれど、
そこがどれほど大変な道のりなのか、どんな素晴らしい景色が広がっているのかを
疑似体験させてもらったような気がする。

自分の身体ひとつを頼りに、重い荷を背負い、疲れや眠気と戦い、寒さに震えたり、恐怖したり。
代わりに、その場所に立った者にしか見られない景色や、心に残る人との出会いがあったり。
過去から今へ、そしてその先へ繋がっていく主人公の人生そのものが、彼女の歩みとともに浮かび上がってくる。
真っ直ぐで不器用で、時々思い切ったことをやってのける、この主人公がなーんかかわいいんだよねぇ

あと本筋とは全く関係ないけれど、巨大なシャコ貝に挟まれる話、私も子どもの頃読んだ覚えがあって。
あれ、何の本だったのかな・・・久しぶりに懐かしく思い出しました。
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2015年05月04日

 太宰治の辞書

太宰治の辞書 -
太宰治の辞書 -

もう出ることはないと思っていた、《私》シリーズ最新作。
小躍りして飛びついたのは私だけではないでしょう。

《私》は大人になり、今や高校生の息子がいる編集者。
息子や連れ合いとの日常も少しは見えるものの、おおむね《私》が書物の謎をめぐる物語でした。
大学生だった《私》が不可解な謎を持ち込み、それを円紫師匠が鮮やかに解き明かすという往年の雰囲気とは違って、『六の宮の姫君』の流れを汲む感じでしょうか。

小説を読んでいると、そこからの連想で他の小説や作家に繋がっていく楽しさというのは、読む人なら誰でもうなずけること。
それにしても《私》の興味と好奇心は深く幅広く、ピエール・ロチから三島、「舞踏会」、芥川、太宰、「女生徒」・・・次々展開する繋がりに、浅学の徒にはやや気後れするほどでした。
読むべき本を読んでいないなぁという焦りさえ感じてしまう私をよそに、《私》はすいすいと謎の海を泳ぎ、新たな気づきに心躍らせていきます。
みずみずしい感性はそのままに、経験を重ねた《私》の姿が目に浮かぶようです。

正ちゃんの登場がうれしかったなぁ
相変わらず気風のいい男前。
大人になった3人それぞれの物語も見てみたい。
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2009年05月10日

鷺と雪

鷺と雪 [単行本] / 北村 薫 (著); 文藝春秋 (刊)

良家の娘・英子の目を通して語られる昭和初期のおひいさまたちの暮らしと、ベッキーさんが影の役者となる謎解き。
ある子爵の失踪、夜の繁華街へ出かけていた小学生、若い男の面の前で昏倒した学友が秘めていたある写真といった謎解きをからめながら、時代が向かう先への不安が高まっていく。
そして昭和11年の事件勃発で、物語の幕となる。

一話ずつの昭和初期の世情、文学や能などの要素と謎解きはおもしろかった。
当初からある方向性を目指していたからこそ、この結末なんだろうが、どうも焦点が絞りにくくなってしまった印象。
たぶん前作もそんな感じで、結局感想が書けなかったもよう。
魅力的なベッキーさんのきらりと光るところをもっと読みたかった。
英子と、恋にうかれまた破れては消沈する兄とのほほえましい兄弟愛、このテンポは良かったな。
それと能。いたく興味を刺激された。

巻末の参考文献はどうだろう?元ネタバラシはあった方がいいのかどうだか。
ふ〜んとは思うけど。
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2008年09月04日

野球の国のアリス

野球の国のアリス (ミステリーランド) [単行本] / 北村 薫 (著); 講談社 (刊)

講談社ミステリーランドの一冊。
野球かぁ…と少々及び腰ながら手にしてみたが、そのへんはやっぱり北村さん。
はつらつと初々しい少女健在で、野球に興味がなくても、わくわくとした高揚感は共に味わえた。
子供をも対象とした本なので、読みやすいのはもちろん、それでも物語のおもしろさには引き込まれる。
こういう本は、子どものうちに出会っておきたかったなぁ
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2007年10月05日

1950年のバックトス

1950年のバックトス [単行本] / 北村 薫 (著); 新潮社 (刊)

ほんの小さな物語を含む23の短編集。

最初の『百物語』、どうも以前に読んだことがあると思ったら、アンソロジー『七つの黒い夢』に入っていた。でも百物語というくらいだから、元になる物語があるのかもしれないね。
そんな北村さんには珍しい怪談風から、ちょっと不思議なもの、ぞくっとくるもの、ほのかに温かなファンタジー、落語を現代に再現したようなコミカルなもの、日常の謎もの、夫婦や親子の機微を描いたもの・・・とバラエティ豊か。
落語風謎解き「真夜中のダッフルコート」、駄洒落夫婦の「洒落小町」、恋の幸せな勘違い「百合子姫・怪奇毒吐き女」あたりが楽しい。
日常の謎というのは、日々の暮らしの中にいくらでもあって、ただそれに気づいたり好奇心を持ったりすることで見出されるのだ。

後半は、人の深い思いにしみじみ浸れる作品が多い。
抱き続ける思い出は胸に熱く、二度と手にすることのできないものほど、甘美で切ない。
倒れた母が口にした『ナリマス』の謎「小正月」、これになぜかやられてしまった。
脈々と自分に繋がり、そしてまた子へと繋がってゆくもの・・・そのために自分はここに生かされているのだという想いに、思わずこみ上げてくるものが。

最終話「ほたてステーキと鰻」は、「ひとがた流し」その後のエピソード。
去年の「ひとがた流し」の、あまりに鮮烈な印象が蘇ってきた。
失うものがあれば、得るものもある。
生きることがそもそも喪失の歴史だとしても、今を明日に繋げて生きてゆくのだ。
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2006年08月24日

ひとがた流し


ひとがた流し

ひとがた流し

  • 作者: 北村 薫
  • 出版社/メーカー: 朝日新聞社
  • 発売日: 2006/07
  • メディア: 単行本


もう、思い入れ強すぎて胸がいっぱいで。
これは物語のかたちをした、祈りだ。
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2006年04月15日

紙魚家崩壊 九つの謎


紙魚家崩壊 九つの謎

紙魚家崩壊 九つの謎

  • 作者: 北村 薫
  • 出版社/メーカー: 講談社
  • 発売日: 2006/03
  • メディア: 単行本


90〜98年に発表された短編と、メフィストに連載されていた「新釈おとぎばなし」の9編。
SF的ショートショートのような物語もあり、ホラー風あり、これが北村さん?というくらい変わった雰囲気のものも楽しめたが、一番良かったのはやはり「新釈〜」。
国内外のおとぎばなしをミステリとして考えると実は・・・というのが、とてもおもしろかった。
それにしても改めて読む「かちかち山」の恐ろしさは随一だ。
例の、「流しの下の骨」、あれが一番怖いんだよなぁ
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