2014年11月03日

 昨日のまこと、今日のうそ

昨日のまこと、今日のうそ 髪結い伊三次捕物余話 -
昨日のまこと、今日のうそ 髪結い伊三次捕物余話 -

シリーズも13作目になりました。
不破家では龍之進ときいの長男が栄一郎と名付けられ、父親としては強面で荒っぽかった友之進も孫には目尻が下がりっぱなし。
隠居したら・・・などと考えるようになった。
そりゃそうだよね、龍之進の役人勤めも十年を超え、もういっぱしの同心として捕り物とは何ぞやなどと考えるようになったのだもの。

今作は、それぞれが悩みや迷いから一歩踏み出した、転機の章に思える。
茜は、悲しみとともに悩ましい問題から解き放たれ(たぶん)、伊与太は秀でた才の新弟子への引け目から北斎に助けられ、九兵衛はすったもんだの末、祝言へ。
その先もまだわからない、とば口に立ったところだけれど、若い人たちそれぞれが幸せになってくれるといいなぁと思う。
本家の伊三次はもう、何事かあると横からちょこっと示唆するくらいで、落着いたように見える。
でもまだお吉がいるものね・・・彼女が一人前の髪結いになれるのかどうか、悶着はありそうです。

ささいなことにも揺れ動く、思うに任せぬ人の心。
それを飼い慣らしてゆくのが生きるということなのかもしれません。
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2014年01月15日

 名もなき日々を

名もなき日々を 髪結い伊三次捕物余話 [単行本] / 宇江佐 真理 (著); 文藝春秋 (刊)

髪結い伊三次捕物帖余話 12巻目
手妻師に関わる捕り物や子供の行方捜しなどもあるけれど、子世代それぞれの歩みをたどる、悲喜こもごもながら穏やかな一巻。

伊与太は、師匠を亡くしたものの売れっ子絵師に引き取られ、妹のお吉は女髪結いの修業を始める。
奉公先の世継ぎ問題に巻き込まれていた茜も、後ろ盾になってくれそうな人物が現れた。
自分の人生を歩み始めた彼らの背後にあるのは、天下泰平とはいえ財政難と世情不安の影が見え隠れする世の中だ。
それでもどんな世であれ、堪え忍ぶ日々に希望を探し、今日と明日とその先に良きことを願って生きていく。
これでいいと思うことを諦めと卑下せず、地についた幸せと思う様は、焦りがちな気持ちをなだめられるようだ。

新たな命の誕生に気持ちは浮き立つけれど、伊三次たちの物語はそろそろ収束へと向かうのかなと少し寂しい。
伊与太と茜も、どんな形であれ幸せになってくれますようにと願わずにはいられない。
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2012年09月07日

明日のことは知らず

明日のことは知らず 髪結い伊三次捕物余話 [単行本] / 宇江佐 真理 (著); 文藝春秋 (刊)
明日のことは知らず 髪結い伊三次捕物余話 [単行本]

宇江佐 真理 (著)

文藝春秋 (刊)




伊三次とお文の日々は、悲喜こもごもながらゆるゆると過ぎていくような穏やかな巻だった。

身近な人が亡くなったり、きい夫婦に残念なことが起きたりもするが、弟子の九兵衛がいよいよ台箱をあつらえてもらい半人前のその先へ、また懐かしい直次郎との再会もあった。
伊三次の娘・お吉も11歳、親の思惑をよそに自分の進む道を定めているようだ。
里帰りした伊与太も大人びて、伊三次と対等に、むしろ親をいたわる目線を感じる。

伊三次たちと不破家を中心に、たくさんの人たちが縁をつなげている。
そしてそれぞれに、心を痛めたり安らいだりする相手があり、場所がある。
伊三次はもう四十を超えたのだっけ?
とんがっていなせな伊三次も良かったけれど、お文とともに子供の成長に目を潤ませる彼もまた良し。
それにしてもお文姐さんの啖呵は健在でうれしい。
色っぽくきゅっと睨むしぐさを受け継いだお吉の成長も楽しみ。

茜と伊与太・・・彼ら自身のことも、ふたりのことも、どうなるんだろうね。
先のこと、明日のことさえ誰にもわからない。
ならば憂うことなく今を生きよと。
どうかみんなが幸せな形になりますように。
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2011年08月25日

心に吹く風

心に吹く風―髪結い伊三次捕物余話 [単行本] / 宇江佐 真理 (著); 文藝春秋 (刊)

当日の捕り物であわや婿不在になるかと危ぶまれた祝言も無事に済み、きいは不破家の一員となった。
家族に大事にされるなか小姑の茜は時おり厳しい言葉を向けるが、弟を抱え苦労してきたきいはさらりと流し、うまく立ち回っていた。
一方、兄弟子と喧嘩をして実家に戻っていた伊与太は、人相書きの手腕を見込まれ、しばらくの間不破家の中間を務めることに。
迷いのなかにいた伊与太がやがて自分の進むべき道を見出し、茜は大名屋敷へ警護のための女中奉公に上がる決意をするが、別れを目前に切ない約束を交わす。

長丁場となったこのシリーズも、すっかり世代交代の感。
今回物語を生き生きと駆けまわっていたのが、きい。
町屋者あがりのおてんばでそそっかしいところはあるが、自分の感じるまま、信じるとおりに動く彼女がとてもはつらつとしてかわいらしい。
彼女の相手を思いやっていることがわかる素直な物言いが、周囲をなごませ、力づけ、悪女でさえ心を動かす。
特に舅である友之進は、この若い嫁がかわいくってしかたがないらしいね。
自分の娘とは全く違うタイプだから、よけいそうなんでしょう。

そんな彼女にただ一人厳しい茜の心中も、わからなくはない。
自尊心の高い彼女は、思うままに行動するきいのようにはなれない。
それでも縁談が来た際には、兄たちのような夫婦になりたいと素直に口にしているのだから、 彼女も変わっていくのかな。

威勢のいい父親と比べなんだかぼんやりした印象だった伊与太も、ようやく火が付いたようだ。
それぞれの人生も、ふたりの先も、まだ見えず。
いい形に育ってくれるといいなぁ
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2009年08月26日

寂しい写楽


寂しい写楽

寂しい写楽

  • 作者: 宇江佐 真理
  • 出版社/メーカー: 小学館
  • 発売日: 2009/06/26
  • メディア: 単行本


寛政の改革による処罰で痛手を被った江戸の版元・蔦谷重三郎は、店を立て直すため、写楽による歌舞伎役者絵の大首絵を売り出すことにした。
これまでとは全く違った役者絵を描く写楽という謎の人物をはじめ、蔦谷のもとには、後の十返舎一九、馬琴、北斎、山東京伝などが創作で生きる道を模索していた。

絵を描き、物語をつづることを、庶民の楽しみだけでなく芸術まで高めたそうそうたるメンバーが、同じ時代に関わり合いながら生きていたということを初めて知った。
武士を捨て、あるいは版元で下働きをしながら新たなことに挑戦し、吉と出るか凶と出るかは世間しだい。
さらに世間を喜ばせても、お上の沙汰に触れれば筆を折らざるをえない。
様々な縛りがあったからこそ、開花した文化なのかもしれない。

写楽の描いた絵は寂しいのだという。
時代に求められなかった写楽は不運だが、自分には描けないものを描いた才を脅威と感じた絵師もいたのではないかと想像する。
いつもの宇江佐作品とは違うやや硬質な物語だったが、それぞれの人となりに重心があって楽しめた。
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2009年06月16日

富子すきすき


富子すきすき

富子すきすき

  • 作者: 宇江佐 真理
  • 出版社/メーカー: 講談社
  • 発売日: 2009/03/19
  • メディア: 単行本



吉良上野介の妻・富子の昔語りである表題は今ひとつだっただけに、なんでこのタイトルだったんだろう?と思う、短編集。
俵藤太の百足退治が描かれた帯を巡る『藤太の帯』は、ちょっと変り種。
幼なじみの花魁と引き手茶屋の奉公人の悲恋『おいらの姉さん』、
母の病により、父と訳ありな深川芸者のもとに預けられた少年の『面影ほろり』が特に良かった。

宇江佐作品の多くは、必ずしもみんなが幸せにはならない。
多くを望まず、力を尽くしても、ほんのささやかな楽しみや喜びさえ手折られ、残酷なほどの仕打ちにあう。
どうにもならない、秘めた思いは強く胸を焼く。
それでも生きていくたくましさに、打たれるのだと思う。

市太郎が去ったあとのおひさの心中は、どれほどだったろう。
せつなく、やるせない余韻が残る。
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2008年10月07日

深川にゃんにゃん横丁


深川にゃんにゃん横丁

深川にゃんにゃん横丁

  • 作者: 宇江佐 真理
  • 出版社/メーカー: 新潮社
  • 発売日: 2008/09
  • メディア: 単行本



猫好きな住人たちのおかげで、野良猫も飼い猫ものんびり暮らす、深川の「にゃんにゃん横丁」
様々な事情を抱えて暮らす喜兵衛店の住人たちと、雇われ大家・徳兵衛の、悲喜こもごもの日々を描いた連作短編集。

なんと表紙をはじめ挿絵が、あの柴田ゆうさん!
そのほっこりとかわいらしい絵が似つかわしい、あたたかみのあるお話だった。
もちろん、長屋住人たちの多くはその日暮らしで、亭主が妻が子どもがと、それぞれに問題や悩みを抱えながら何とか口をしのごうと苦労しているのだけれど、嫌でも見え、聞こえてしまう隣近所と付き合っていく距離が、程よい。
おせっかいも焼く。裏切られたり逆恨みされて傷つくこともある。それでも知らん顔はできない。
自分や家族のことだけでなく、周囲もみな大切な縁という思いが身に染み付いている人たちだ。

徳兵衛が、幼なじみの富蔵、おふよと言いたい事を言い合い、たいていはおふよにやりこめられて何くれと動く姿は、ほほえましくもある。
それだけ人と人との繋がりが濃くても、結局のところ、人はひとりで生き、死んでいくのだ。
自由と身勝手を手に入れた時代になっても、そのことだけは変わらない。

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2008年08月17日

我、言挙げす


我、言挙げす―髪結い伊三次捕物余話

我、言挙げす―髪結い伊三次捕物余話

  • 作者: 宇江佐 真理
  • 出版社/メーカー: 文藝春秋
  • 発売日: 2008/07
  • メディア: 単行本



髪結い伊三次捕物帖余話シリーズ。
鳴りを静めた本所無頼派に代わり、薩摩へこ組と呼ばれる若侍たちが世間を騒がせ、捕物に追われる中、不破龍之進たちにも後輩ができ、見習い組から番方若同心と昇格した。
隠密廻りの小早川につき、清濁併せ呑むことの難しさや、尊敬する人を失う悲しみを味わい、時には武家のお家騒動に巻き込まれだりしながら、職務に邁進する龍之進たちが中心となる巻。

お文はというと、奇妙な辻占いと出会ってひと時、夢のような別の人生を歩んでみたり、いつまでも楽にならず先の見えない暮らしに少し溜め息をついているようだ。
今ひとつ元気のないお文に引き換え、めっぽうかわいいのが伊与太。
「おかしゃん」「たん」これだけでもかわいいのに、涙こらえて「おいら、我慢した。お利口さんだった」なんて言われた日には・・・たまりませんなぁ

なんだか繋ぎのようなこの巻も、最後は転機。
またしても身一つになった伊三次家族、表情は明るいもののさてどうなりますことやら。
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2007年12月11日

晩鐘

晩鐘 続・泣きの銀次 (講談社文庫) [文庫] / 宇江佐 真理 (著); 講談社 (刊)

「泣きの銀次」続編。

死人を見ると涙が止まらない銀次も四十。
十年続けた表勘兵衛の小者も退き、お芳と一緒に八歳を頭に四人の子を育てながら二度の火事で小さくなってしまった小間物売りの店「坂本屋」を細々と続けていた。
しかし市中で若い娘のかどわかし事件が続いていたおり、たまたま被害者のひとりを救出したことからふたたび十手を手にすることになる。

十年経てば、自分も周囲の人間も変わる。
それでも銀次の十手持ちとしてのキレは変わらず、食らいつくような探索の中でも、人の情けに篤い。
気丈なお芳、それを受け継いだおいちをはじめとする子達。
そんな家族を持ち、生活のためには見栄を張ってもいられないつつましい生活の中で、培われたものも大きいのだろう。
いつの間にか心根を間違えた者がいる。底辺を這いずるような暮らしでも、笑ってみせる者もいる。
ひと口に良し悪しのつけられないのが人生ではあっても、悪者がのさばることなく淘汰される、勧善懲悪の小気味よさが何より。
黙って一歩後に控えつつも自分の信念は譲らない女性陣のたくましさが、生きている。
思うに任せぬ人生の機微を味わいつつ、すかっと気持ちのいい捕物長、健在。
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2007年11月23日

夕映え

夕映え [単行本] / 宇江佐 真理 (著); 角川春樹事務所 (刊)

時は幕末。
江戸本所の縄暖簾「福助」では、女将のおあきが、娘のおてい、岡っ引きの夫・弘蔵と常連に囲まれ、職の定まらない息子・良介の心配をしながら、商いの日々を暮らしていた。
しかし黒船来航から始まる諸外国の圧力に対する攘夷運動は、やがて倒幕運動へと変わり、不穏な情勢は武士だけでなく町民にも影響を及ぼし始めた。
そんな中、良介が彰義隊に志願、動乱のさなかに身を投じてゆく。

長く続いた太平の世から動乱の時を経て、新しい明治という時代に移り変わる過渡期。
たまたま先だって新撰組の小説を読んだばかりだったので、流れとしてはとても読みやすかった。
というぐらい、かなり歴史小説的。
歴史的事件がいかに、立ち位置や関わり方によって受け止め方が違うことか。
官軍となった側も憂国の士ばかりではなく、にわか権力に酔い非道な行為に及んだ者もいたという。
幕府が倒れるという大きな変化を、市井の人たちはどう感じていたのか、というところが一番興味深かった。

娘の恋路にやきもきしたり、了見の知れない息子にため息ついたりしながら、夫の身を案じ、常連客の話に耳を傾けるおあき。どこにでもいる、気丈な町屋の女将だ。
お侍がどう騒ごうと、子を育てあげ、夫とのつつましい暮らしが続けばそれで幸せだったはず。
けれど息子は侍に憧れ、夫も元は蝦夷松前藩士。元同僚とも付き合いが切れたわけではない。
町人に生まれ、どうして子を戦に送り出さなければならないのかと、身を切られる思いだっただろう。

子が自分の思うように生き、結果、失ったものの代わりに得たものがあるなら。
そう思って生きてゆくしかない。
なんや、せつないなぁ・・・けど、最後を次代への希望へと繋げるところはさすが。
希望。それこそが、宇江佐小説のしみじみといいところなんだよなぁ
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