離陸 - 奇妙な外国人イルベールに、学生時代の女友達である「女優」を探してほしいと訴えられた佐藤。
パリへ転勤になったのを機に彼を訪ね、行方不明の乃緒をめぐる人びととの交流が始まる。
見知らぬ男がいきなり職場に現れて、かつて付き合いがあった人の探索を訴えられたら。
これは怪しいだろう。訳が分からないだろう。
けれど佐藤は、迷いながらも男に会うことにした。
めぐりあいって、そんなものかもしれない。
ダムの現場からパリへ、そして帰国して霞が関、やがて八代へ。
遷ってゆくあいだに、乃緒をめぐる人たちは、佐藤をめぐる人たちになる。
物静かでどこかぼんやりした印象さえある佐藤だけれど、彼が人に向けるまなざしは、生真面目であたたかい。
民族の悲しみを抱えたイルベール、早く大人にならざるを得なかったブツゾウ、ミステリアスな乃緒。
誰より印象的だったのが妹の茜。たくましい妹が、兄を足がかりに飛躍しようとするのが微笑ましかった。
ダム現場の酒屋のおばあちゃんも良かったな。何気ないひとことに深みとおもしろみがあって。
そうして人と人が関わるところには、年齢や言葉、習慣の違いを超えて影響しあうなにがが生まれるものなんだなぁと思う。
影響を受けない思いなんてないんだ。
読みおえてみれば、とても大切な人をはじめ何人もの人が亡くなって、胸の痛むことも多かった。
リュシーと出会ってからのことは、少し駆け足だったような気がする。
結婚生活が世代を超えて繋がっていく物語なら良かったのにと、とても残念に思う。
でも、別れのない人生なんてないんだよね。
それを離陸ととらえるのは、今なら少しわかる気がする。
私たちは離陸を見送る客ではなく、飛び立つまえの準備をしているんだということ。
淡々と綴られる文章のなかに、悲しみも喜びも諦めも期待もおかしみも、いろいろな気持ちがぎゅっと濃縮されていて、読み終えたあとの余韻がたまらなくいい。
久しぶりに絲山さんの物語を堪能しました。