2024年01月15日

 神と黒蟹県

神と黒蟹県 - 絲山 秋子
神と黒蟹県 - 絲山 秋子

いろいろ架空だがどこにでもありそうな地元ネタ満載の黒蟹県。
そこに住む人、これから住む人、ちょっとだけ訪れた人、そして人に混ざり人間を学ぶ神たちそれぞれの視点から描かれる、日々と移ろいの物語。

聞いたこともない有名なお土産だとか、架空の製品を作るいかにもありそうな資格から始まる、たまーに実在が混じるホラ話を、各章読み終わるごとに虚実辞典で答え合わせをするのが楽しかった。
いや、ホラ話などと言ってはいけなかった、地元感あふれ我が事として思い至る表現にあちこちで小鼻がひくひくしてしまったが、これは絲山風しみじみファンタジーなのだ。
「ひとつ前のふっかつの呪文」なんて無くてもいい、移動しなくても時が過ぎればまわりの見え方も自分の感じ方も変わってくる。
それが生きるということだし、人間としての愛おしさなんだと思う。
面白かった。
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2014年11月10日

 離陸

離陸 -
離陸 -

奇妙な外国人イルベールに、学生時代の女友達である「女優」を探してほしいと訴えられた佐藤。
パリへ転勤になったのを機に彼を訪ね、行方不明の乃緒をめぐる人びととの交流が始まる。

見知らぬ男がいきなり職場に現れて、かつて付き合いがあった人の探索を訴えられたら。
これは怪しいだろう。訳が分からないだろう。
けれど佐藤は、迷いながらも男に会うことにした。
めぐりあいって、そんなものかもしれない。

ダムの現場からパリへ、そして帰国して霞が関、やがて八代へ。
遷ってゆくあいだに、乃緒をめぐる人たちは、佐藤をめぐる人たちになる。
物静かでどこかぼんやりした印象さえある佐藤だけれど、彼が人に向けるまなざしは、生真面目であたたかい。
民族の悲しみを抱えたイルベール、早く大人にならざるを得なかったブツゾウ、ミステリアスな乃緒。
誰より印象的だったのが妹の茜。たくましい妹が、兄を足がかりに飛躍しようとするのが微笑ましかった。
ダム現場の酒屋のおばあちゃんも良かったな。何気ないひとことに深みとおもしろみがあって。
そうして人と人が関わるところには、年齢や言葉、習慣の違いを超えて影響しあうなにがが生まれるものなんだなぁと思う。
影響を受けない思いなんてないんだ。

読みおえてみれば、とても大切な人をはじめ何人もの人が亡くなって、胸の痛むことも多かった。
リュシーと出会ってからのことは、少し駆け足だったような気がする。
結婚生活が世代を超えて繋がっていく物語なら良かったのにと、とても残念に思う。
でも、別れのない人生なんてないんだよね。
それを離陸ととらえるのは、今なら少しわかる気がする。
私たちは離陸を見送る客ではなく、飛び立つまえの準備をしているんだということ。

淡々と綴られる文章のなかに、悲しみも喜びも諦めも期待もおかしみも、いろいろな気持ちがぎゅっと濃縮されていて、読み終えたあとの余韻がたまらなくいい。
久しぶりに絲山さんの物語を堪能しました。
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2011年10月21日

不愉快な本の続編

不愉快な本の続編 [単行本] / 絲山 秋子 (著); 新潮社 (刊)

「作家の超然」に引き続き、なんかムズカシイテーマを持ってきたなぁ・・・というのが読後の印象。
語り手である乾は、「愛なんかいらねー」の主人公らしい。
あぁあの物語・・・ああいう趣味は苦手だったなぁと思い出した。

好きなように生きて流されて、自分がどうなろうと関心がないみたいに。
こんなにも美しいものや穏やかに優しいものがあるのに、彼は常に満たされずすかすかしている。
自由は孤独・・・逆かな。孤独であることは自由だ。
うまく咀嚼できないけど、そんな感じ。
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2010年10月23日

 妻の超然

妻の超然

【超然】とは、辞書によれば『物事にこだわらず平然としているさま』なのだそう。
妻の超然、下戸の超然、作家の超然という三つの物語。

38歳で結婚して10年、子どもはなく、夫は浮気を繰り返しすでに同居人のような夫婦。
いちいち声を荒げて争うことにも疲れ、ああまたかと冷めた目で夫を見やりつつ、その実穏やかでない心中から超然とせざるを得ない『妻の超然』
めそめそと「女」を振りかざさない人たちがかっこいい。

下戸で飛行機嫌いの男と、酒好きでボランティアのNPO活動にのめりこむ女の物語『下戸の超然』
自分の好みや考えに固執して譲らない超然は、時に善意を押し付ける。
それって誰かに頼りたいことの裏返しなのでは?
ポジティブな不毛、我慢している自己憐憫。

首にできた腫瘍を手術する作家の人生を俯瞰する『作家の超然』
これは誰に向かって投げかけられている言葉なのか・・・うーんなんか難しかったけど、これが一番好き。

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2008年10月24日

ばかもの


ばかもの

ばかもの

  • 作者: 絲山 秋子
  • 出版社/メーカー: 新潮社
  • 発売日: 2008/09
  • メディア: 単行本



大学生のヒデと、年上の額子との恋愛物語。

恋は、したほうが負け。という言葉が浮かんだ。
手ひどい仕打ちに怒るどころか、身を持ち崩していくヒデ。
とめどなく落ちていってしまう、どうしようもなさが怖いほどだった。

ようやく這い上がった男と傷ついた女が、再会する。
振れ幅の激しい思いはいつか、許しと受容に形を変えていくけれど、それもまた良し。ということで。
ばかものという言葉は、いろいろなものを包みこんで、深い。
そうとしか言えなかった気持ちは、胸に落ちた。
絲山さんの恋愛は、直接描写があってもあまり色気がないんだが、そもそも恋愛物は苦手なもんで、どうもね・・・
おばちゃんが良かった。あったかくて。
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2008年09月02日

ラジ&ピース


ラジ&ピース

ラジ&ピース

  • 作者: 絲山 秋子
  • 出版社/メーカー: 講談社
  • 発売日: 2008/07/31
  • メディア: 単行本



ラジオ番組の中ではそつなく人に接することができるのに、実はコンプレックスを抱え、他人に対して構えてしまう女性が、 群馬という土地で少しずつ根を張っていく『ラジ&ピース』、
抱き枕代わりの男と一緒にいる日々を終わらせて爽快になる『うつくすま ふぐすま』の2編。

短いけれど、『うつくすま ふぐすま』の、きっぱりとかっこいい文章が好き。
群馬への愛もちらりと見えまする。
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2008年04月21日

豚キムチにジンクスはあるのか

豚キムチにジンクスはあるのか―絲的炊事記 [単行本] / 絲山 秋子 (著); マガジンハウス (刊)

『Hanako』に連載された炊事記エッセイをまとめたもの。

何より問題なのが、「おいしいものを食べたから書く」ではなく、「書くためにおいしいものを食べる。
しかも自分で作って」なので、 苦難の道のりが延々と。
とはいえ、どうだとばかり果敢に新たな食材・調味料の組み合わせに挑戦し、時に惨敗を喫し、時に思いがけなく大成功をおさめては調子の乗る絲山さんは かわいらしくもあり、思いつきだけでも何とかなる自炊の気楽さと楽しさ満載。
ちょっとへたれでかっこいい絲山さん、という作品そのままのイメージです。

せいろにふきのとうの天ぷら、イタリアンのオールマイティソース・自称「ヘナッポ」こと「へっぽこナポリタン風ソース」、エスニックにはサンバルソース・・・などなど、写真なしでもたっぷり食欲を刺激してくれます。
これを読んだあと、無性に冷やし中華が食べたくなりました。
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2007年06月10日

ダーティ・ワーク

ダーティ・ワーク [単行本] / 絲山 秋子 (著); 集英社 (刊)

途中まで、短編集かと思って読んでいた。
しかしよくよく読んでみれば、この人の男というのはさっきの彼か?その兄貴というのは?ってな具合に、実は10人以上の登場人物が 主になり副になり、思い出のかけらとなり、立ち位置を変えながら描かれている物語だった。

ギタリストの熊井が心の中に住まわせ続けていた遠井との再会、そしてそれからの物語を主軸に遠井の弟の彼女の兄嫁が実は・・・といった縁が描かれ、 その中で熊井や遠井の姿が浮き彫りにされてくる。
ちょっとエキセントリックな療養生活者・神原、脇腹にタトゥーを入れた麻子さんなど、女性陣は誰もが個性的でどこかかわいらしく好感が持てるけれど、 やっぱり一番は熊井だなぁ。
どこかこう一本筋が通ってて自然で、かっこいい。
やわらかな締めくくりも良いね。
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2006年08月17日

絲的メイソウ    


絲的メイソウ

絲的メイソウ

  • 作者: 絲山 秋子
  • 出版社/メーカー: 講談社
  • 発売日: 2006/07/22
  • メディア: 単行本


「小説現代」に掲載されていたエッセイ集。
彼女の人となりがよくわかる…気がする。
酒とハゲと乗馬が好きで、豪胆と小心が同居している、あまり色気のない人だなあと。
彼女はその文と同じく、すかっとして気持ちのいい人らしい。
時折見える下品さも、これだけ男らしくちゃしょうがないか。
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2006年06月13日

沖で待つ


沖で待つ

沖で待つ

  • 作者: 絲山 秋子
  • 出版社/メーカー: 文藝春秋
  • 発売日: 2006/02/23
  • メディア: 単行本


芥川賞受賞作ということで興味を持った人が多かったらしく、なかなか図書館での順番が回ってこなかった。
ようやく手にした本は思いのほか薄く、それも「勤労感謝の日」と2編で、だった。

表題作「沖で待つ」は、同期入社の太っちゃんと私の友情の物語。太っちゃんがとんでもなく不幸な事故で他界し、かねてよりの協定を実行すべく、 太っちゃんのパソコンのHDDを壊しに行く私。
仕事を通じて信頼関係を結んだ同期というのは、恋人とはまた違うベクトルで、濃密な繋がりなのかもしれない。 お互いに向き合う恋人と違って、同期は同じ方向を向いているから。
でも、男同士の同期だったらどうってことない内容が、女性が同等に働いて、戦友のような感覚で付き合っていることが目新しがられているんじゃないかという気もする。
会話や物語の運び方はテンポ良くて好きだし、「沖で待つ」ってとても印象的なフレーズですが。

同収の「勤労感謝の日」は、元総合職OLが勤労感謝の日に、嫌々した見合いを途中ですっぽかし、元後輩や近所の飲み屋でうさをではらす物語。女の味方は女、というのがいい。
絲山さんの文章は好きなんだけど、時々露悪趣味というか、わざわざ何でこんなことを?と思うような下品さが気になる時がある。その辺がどうもね…
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