2018年04月11日

 シネマコンプレックス

シネマコンプレックス -
シネマコンプレックス -

クリスマスイブのシネコンを舞台にした連作短編集。

みんなに一目置かれる古株のアルバイトから新人、学生、パートの主婦、都落ちの正社員と様々な立場のスタッフがそれぞれに抱える事情や屈託、小さな始まりと終わり。
映画館での仕事が垣間見えるお仕事小説としても楽しめたし、「イブなのにあえて仕事」の不幸感が、一日の終わりには何となくいい感じに向かっていそうな雰囲気で頬が緩みます。

目線を変えることで、お調子者が実は底知れずだったり、嫌われ者にも別の見方があったり。
その人となりが多方面から見えて、駄目なだけの人も嫌なだけの人もいないんだなぁとあたりまえのことを思う。
もちろん最後に一番気になっていたふたりが、ハッピーであろうエンドなのは良かったのだけど、吹っ切れた加藤君の話が好きだったな。
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2017年06月22日

 家と庭

家と庭 -
家と庭 -

お金に不自由しない家に育ったばかりに、大学を卒業してからもマンガ喫茶でのアルバイト生活を続けている望。
父は海外勤務で不在、母と下の姉、妹との3人暮らしだったが、そこへ上の姉が子連れで出戻ってきた。
夢も希望も特になく、こじんまりと便利な町に埋もれるように生きてきた望の日々が、変わりはじめる。

姉ふたりに男がひとり、ちょっと歳の離れた妹がひとり。
あらまぁうちと同じじゃないの、ということで妙な親近感。
もっとも「お金はあるから」と言える環境とは大差なので、育ち方も全く違うわけですが。

強引だけど実はすんごく繊細な部分を持ってる長女、過去の嫌な体験からひとりで出かけられない次女、目標も希望も特にないけどとりあえずここから出てみようと思っている受験生の三女。
それぞれにぶつかったり頼ったりしながらの距離感が、家族なんだなと思う。

そして将来、土地家屋・賃貸物件すべてを譲り受けることになるはずの唯一男子・望には、これといって望みがない。
金銭的にも家族をはじめとする人間関係にも、何かを変えなきゃという強い思いを持たずに生きてきた。
住んでいる街にも愛着があって、出て行きたいとは思わない。
うーん・・・それって、ある意味幸せなことなんでしょうね。
自分の息子だったら絶対嫌だけど、とちょっと意地悪な気持ちにもなるけれど、まあ家族の在り方はそれぞれだし、それでうまく機能しているんだったらいいのかなとも思う。

ただ、こういう女兄弟に囲まれた男子というのは、良くも悪くも女慣れしてしまうので、恋愛に対してここぞというセンサーが鈍るのかもしれません。
家族の気持ちは取り持つことができても、肝心の女心がわかっちゃいない。やきもきします。

いろいろとちょっとダメだけど、自己評価以上にはいいところがありそうな望が、なんか憎めないんだよね。
遅ればせながらまずは一歩、といったところでしょうか。
ゆるいけど、なんとなくみんな良かったねの読後感でした。
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2016年10月31日

 感情8号線

感情8号線 -
感情8号線 -

全く知らない場所なので地域の雰囲気はわからないけれど、直線なら近いのに電車だと大回りというのが象徴的。

近いようで遠い、幸せなはずなのに不安、親しいからこそ言えない・・・一筋縄ではいかない心の動きがリアルです。
特に恋や結婚がからむと、自分の弱さにプライドや欲や打算が上積みされて、ダメ女やクズ男になってしまう。
そもそも自分の気持ちさえままならない。熱ばかりで空回り。若さ、ですなぁ

登場人物がみんな知り合いや恋人や友人、なくらい繋がり過ぎだけど、物語ごとに違う方向から見えるのはおもしろかった。
爽やかでもほのぼのでもなかったけれど、ぐだぐだや後悔も含めて、あるかもなぁと思う。
女子がたくましいとうれしくなります。
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2016年09月29日

 運転、見合わせ中

運転、見合わせ中 -
運転、見合わせ中 -

朝の通勤通学時間帯に電車が止まった。
そこに居合わせた6人のひとコマ。

学校もサークルも彼女も何となくな大学生。
留年を重ねたうえ遅刻常習のフリーター。
仕事も恋も煮え切らないデザイナー。
結婚願望が強すぎるOL。
そして電車を止めた張本人の引きこもりと、父と自分の夢の間で揺れ動く駅員。

普通に仕事をし、同僚や上司と会話をし、恋人がいれば一緒に過ごす。
本当は現状に満足なんかしていなくて、打開したいと思っていて、でもなんとなく毎日が過ぎていって。
でも、自分も含めてざっくり周りを見渡せば、人生のほとんどはそんな感じかもなぁと思う。
ちょっと頑張ったりだめだったり、傍から見ればたいしたことじゃなくても自分にとっては大事件。
落ち込んだり舞い上がったりわりきったりを繰り返して、とりあえず生きていってる。

それじゃ駄目だろとあきれる場面も多々あるけれど、ちゃんともがいている。
ほんの小さなことでも何か変えられたら、それを少しずつ積み重ねていけたら。
止まった電車を転機に、変わりはじめたささいなことが、とても微笑ましく思える。
そういう、人に向けるまなざしの優しさを感じる。

会話もいいんだよね。
劇的な何かが起きるわけじゃないけど、するする読めてちょっとほっこりな物語。
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2013年08月26日

海の見える街

海の見える街 [単行本] / 畑野 智美 (著); 講談社 (刊)

本田君は市民センターの三階にある図書館で、司書として働いている。
もう10年のベテランだが人づきあいのうまくないところがあって、同期の和泉さんが産休に入ってからは、7年も後輩の日野さんに助けられては情けない思いをしていた。
そこへ和泉さんの代わりにやってきた派遣の春香が、新しい風を呼び込んでくる。

本田君、最初の方はどうにも冴えない印象だった。
恋愛経験もあるようなないような、全てにおいて受け身で、どうしていいかわからなくなると固まってしまう。
三十過ぎでそれはないやろ、インコ可愛がってる場合かと思ったりもしたけど、理解できない異質な状況もはねつけずに受け止めるのは、単に優しいというだけじゃないんだなと見直した。
考えなしのところもあるけど春香ちゃん、確かに可愛げがあるよね。
思ったことをそのまま口にするから人を傷つけたり誤解されることも多いはずだけど、駆け引きなしの素を出せる人って、ある意味うらやましい。

良いだけの人とか、悪いばかりの人なんていないんだな、と思う。
松田君みたいな人は特に。
実際にいれば困った人、という以上に気持ち悪いとたぶん思う。
でも彼が孤独に生きていなければいいなとも思ってしまうんだよね。

ものすごく幸せでも不幸でもない、そのあいだ。
いいことがあったり、ちょっとへこんだり、でもご飯はおいしかったり。
大差なく続く毎日のすきまにうまれる、ささやかな気持ちが、心地良かった。
本田君、最後はかっこよかったよ。
いいなぁ、畑野さん。他の作品も読んでみよう。
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