2023年03月06日

 タイム・オブ・デス、デート・オブ・バース

タイム・オブ・デス、デート・オブ・バース - 窪美澄
タイム・オブ・デス、デート・オブ・バース - 窪美澄

珍しく少女目線の物語。
そのせいか、物語の環境や起きているできごとは結構ハードだし、重いテーマも含まれているのだけれど、生々しさを感じずさらさらと読めた。

古い団地で面倒をみてくれる姉とふたりきり、貧しく体も丈夫ではなく、夜間高校と週3バイトでの生活に、その先の希望を持てずにいるみかげ。
学校には仲の良い友人がいるが、彼ら二人も訳ありだ。
ぜんじいに引っ張られ、団地警備員の手伝いをするようになると、団地に取り残された人たちぞれぞれの事情も見えてくる。

楽に生きられる人ばかりじゃない、困難の多い人生もあるけれど、どんな人生にも意味があり価値があるということ。
現実には理不尽なことばかり、理想は裏切られがちかもしれない。
でも、七海の妹への絶対的な愛情や、むーちゃんや倉梯君の苦しいからこそ優しくあれる強さ、そして変わっていける素直さを持ったみかげも、すごくいいなと思った。
優しさがすとんと心に落ちてくるような、こういう物語も良いです。
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2022年11月29日

 夏日狂想

夏日狂想 - 窪 美澄
夏日狂想 - 窪 美澄

大正昭和とめまぐるしく移り変わる時代に女優を目指し、やがて物書きとして生きていこうともがく女性の物語。

実在の誰かを描いているのだなと思いつつ(後で答え合わせをしました)、家庭を守り子供を育てることだけが女の正しい生き方とされた時代はずいぶん昔のようでいて、当たり前の価値観はそう簡単には変わらないのだなとも。
ただ、生き方を狭められる不自由もあるが、いざ戦争となれば守られる存在ともなる。
違いは単なる損得で語れるものではないのだろう。

隣には常に男の姿があり、誰かを踏み台にし切り捨ててでも自分の思う人生を歩もうとする彼女のたくまさしさに驚かされる。
激情に突き動かされるような若いころよりむしろ、地震や戦争という激動の時を乗り越え、やがてともに歩んできた人たちが一人また一人と去っていく後半に引き込まれた。
しがらみや身を焦がすような思いから解放されて、ただの自分としてわが身を振り返ったとき、それまでのあらゆる経験がいかに自分を豊かにしてくれたかを知る。
故郷に昔の形をとどめるものはなく、懐かしい誰もかれもすでに亡く、大切な想いだけは胸の内に。
しみじみと心をつかまれた。
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2021年03月28日

 ははのれんあい

ははのれんあい - 窪 美澄
ははのれんあい - 窪 美澄

じれったいほど穏やかで、でも芯の通った愛情あふれる家族の物語。

生きていくうちには、仕方が無いと思うしかないことが時々起こる。
真面目に働いていても社会情勢が変わって立ちゆかなくなったり、個々の願いが家族の幸せと合わなくなることもある。
家族として過ごす長い年月の間には、心も体もお互いの関係性も変わっていく。
喜ばしい変化だけじゃないかもしれない。
家族というかたちが保てないことが起きるかも知れない。
それでも。

結人が父親の変化に気づいて急に大人びるのが切なかった。
子ども時代の終わりを知らされて、荒れるでもなく切り替えた気持ちを思うと胸が詰まる。
『はは』は、由紀子でもありちはるでもあるんだろう。

わがままな恋と慈しみの愛とで育まれたひとつのカタチ、家族。
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2020年10月08日

 私は女になりたい

私は女になりたい - 窪美澄
私は女になりたい - 窪美澄

わたしは女になりたい。わかるんですよ、誰かの何かじゃないわたし自身をという気持ち。
そして、もう今さら恋をすることもないと、少し寂しく思う気持ちは。
でもことさら女にこだわるのは、いったい何に誰に張り合っているのかと。
母でも妻でも娘でもあり女でもある年を重ねた自分を、彼女自身が受け入れられていないように思えた。

そりゃいくつになってもきれいな方がいい。
年を重ねてもひたむきな恋ができるって素敵だ。
ある意味なりふり構わず頑張ってきたのに、手ひどい目に遭わされるのは気の毒なようでもあるけれど、無意識なのか相手を軽んじているというか、高をくくっているような様子も見えるんだよね。

真摯に向き合ってきた仕事に関しては、ちゃんと結果に繋がって良かったけれど、相手の男の幼さがどうにも気になって…
結果めでたしなんでしょうが、今回は気持ちに響くところ少なく残念な印象でした。
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2017年07月04日

 やめるときも、すこやかなるときも

やめるときも、すこやかなるときも -
やめるときも、すこやかなるときも -

恋をするのも生きるのも不器用な、三十路カップルの物語。

毎年決まった時期になると声が出なくなる家具職人の須藤壱晴は、十代の頃に一生に一度と思う恋をして、失って、心に蓋をしたまま
かつて恋人に重いと言われたきり恋もできず、家族のために働く本橋桜子。
この二人の視点が交互に、お互いや周囲との関係を描き出す。

どちらも心の内に頑ななものを抱えているせいか、年齢の割に拙い感じがする。
自分のアラはできるだけ見られたくない。
でも、お互いの重荷を分かち合う覚悟がなければ、一緒に生きていくことはできない。
年を重ねた大人の恋には、過去や家族や仕事といったしがらみがもれなくついてきて、相手を大切に思えば思うほど臆病になる。
すこぶる純愛もの、なのだなぁと思う。

結婚を考えたり口にするまでがちょっと唐突に感じたけれど、応援したくなるような2人。読後感は良し。
あと、タイトルもやわらかくていいな。
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2014年04月20日

 よるのふくらみ

よるのふくらみ [単行本] / 窪 美澄 (著); 新潮社 (刊)

保育士のみひろ、商店街の幼なじみでもある裕太と圭祐の兄弟。
人づきあいの濃い商店街を舞台に、3人とその家族たちを巡る物語。

幸せなのに孤独。
それぞれの心と身体の事情がとても生々しくて、身に覚えのある感情がすとんと胸に落ちる場面がいくつもあった。
心も身体も環境も、なかなか思うに任せないものだよなぁとつくづく思う。
傷ついたり傷つけたり、許したり慈しんだり・・・そんなことの繰り返しが、生きるってことなんだろう。
何にしても、みひろもその母世代の人たちも、産む性はたくましい。

裕太にすごく好感を持ったので、でこぼこでも丸く収まりそうな結末がうれしかった。
表紙の写真もかなり色っぽくて、生を謳うイメージ。よく合ってる。
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2013年10月25日

雨のなまえ

雨のなまえ [単行本(ソフトカバー)] / 窪 美澄 (著); 光文社 (刊)

『雨のなまえ』・・・実家の匂いをまとう身重の妻という閉塞感と自嘲に満ちた男
『記録的短時間大雨情報』・・・母と妻であるだけの冷めた生活の中に加わった義母の存在が、中年女の心を乱す
『雷放電』・・・妄想とともに死んだように生きてきた男
『ゆきひら』・・・救えなかった少女への想いを周囲に投影してしまう男
『あたたかい雨の降水過程』・・・息子との二人暮らしを選んだ女の揺らぎ

生まれ育って大人になり、働いたり恋をしたり伴侶を得たり。
選び取って生きてきたはずなのに、気がつけばただ繰り返す冷めた日常を、あきらめの中に受け入れて暮らしている。
熾火のように心の底を焼く生々しい願望は、妄想の中に放ちつつ。
そんな息苦しさと既視感に満ちた短編集。
何もかも思い通りになんていくわけないんだ、誰だって心を少しずつ削りながら、何でもないふりをして日々をやりすごしているんじゃないか。
それを特別苦しいとも間違っているとも思わずにいたのに、こんなふうにあらわにされたら痛くてたまらない。
なかったことにしてきたモノを引きずりだしてくれますね、この作者さんは。
でもそこに一種の清々しさもあったりして。

再終話の『あたたかい雨の降水過程』が、心地よかった。
人を許し受け入れなければ、自分自身がきゅうくつになっていくだけ。
彼女の気持ちのありようはとてもよく分かるから、救われたと感じられて良かった。
こういうところが、この作者の醍醐味。
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2013年07月04日

アニバーサリー

アニバーサリー [単行本] / 窪 美澄 (著); 新潮社 (刊)

戦中戦後を生き延び、マタニティスイミングの講師を続けている75歳の晶子と、有名な料理研究家の母のもとを飛び出し、カメラマンの夢半ばに妊娠した真菜。
時代の違うふたりの人生がていねいに描かれ、晶子の強引なまでの厚意がなければすれ違いに過ぎないふたりが震災の日をきっかけに、替え難い存在になっていく。

年配の方はよく「そういう時代だったから」と口にされるが、苦労の多い時代を生き延びてこられたのだなぁと思う。
時代の変化とともに女性のライフスタイルも変わったけれど、子どもを産む側にいることに変わりはない。
そのリスクも喜びも、抱えるのは女性だ。
こういう時代だから、物があふれて便利になっても孤独な時代だから、時にはずかずかとひとのふところに踏み込んでいくくらいの人がいてくれるのは、幸せなことなのかもしれない。

生きてさえいれば、きっと。そういう希望を思う。
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2013年06月28日

ふがいない僕は空を見た

ふがいない僕は空を見た (新潮文庫) [文庫] / 窪 美澄 (著); 新潮社 (刊)

R−18ということで何となく後回しにしていたけれど、後続が外れなしなので、これは読むしかないでしょうということでデビュー作。
うん、やはりこれも良かった。

語り手をそれぞれ変えた5編のうち最初の2編は、やっかいな恋愛にばかだなぁと思いながらも笑う余裕があった。
福田の『セイタカアワダチソウの空』あたりから、つかまれていく。
たたみかけるように起こる出来事に、心を削られていく福田が痛々しくて。
たとえ他の人にとって田岡さんがどんな人でも、福田にとっては、低く暗いほうへ流されていくはずだった自分をせき止め、引っ張り上げてくれた人だったんだよね。
人にはいくつもの面があって、いいとか悪いとかだけじゃないんだよなぁ
子どもを守りたいのに傷つけてしまう田岡さんにも、福田と同じく祈るような思いがする。

そして母です。これはもう、等身大。他人事な気がしない。
立場や環境は違えど、子どもと向き合い育てていくのは、いくつになっても迷いのなか。
たまたま子供が大きなつまづきもせずスムーズに育ちあがれば、これで良かったのかと思い、思いがけない方向へ向かってしまえば、何が悪かったのかと責めもする。
そのふたつに大きな違いはない。
ひとりの人間として生きているのだから、取捨選択のとりあえずの結果が目の前にあるだけだ。

しかしいいな、お産って。
そんなことを目の当たりにして育って、いい子が育たないわけないじゃない。
実際に同じ立場に置かれたらとんでもなく悩むと思うけど、きっと大丈夫。
行き辛さもバネにして、伸びやかに育っていけ。と思う。
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2012年08月05日

晴天の迷いクジラ

晴天の迷いクジラ [単行本] / 窪 美澄 (著); 新潮社 (刊)

母の溺愛によって兄と妹が壊れ、さらに孫へと執着が続く家を出て東京のデザイン会社に入った由人。
18歳で生んだ子供を捨てて東京へ、夢中で働きデザイン会社を作ったが不景気でつぶれそうな野乃花。
姉が幼くして病死したことから過干渉な母に追い詰められ、引きこもった正子。
先は手詰まり、戻る場所はない。
そして死を意識した3人が同じ車に乗り合わせ、とりあえず、湾に迷い込んだクジラを見に行こうとする話。

親子ほど年の違う社長と社員、高校生の少女。
年齢も立場もそれぞれ違う、生い立ちから今に至る軌跡が描かれる。
そこに見えるのは、歪さを抱えた家族のかたち。
母親の無自覚な偏愛や過干渉で、自分の気持ちを内へ内へとしまいこんだ子どもが壊れていくのを見るのは、とてもつらかった。
由人には父や祖母の理解があったけれど、正子の父はむしろ母親以上に追い詰めた。
親って、自覚がないまま子どもを傷つけていることがどれほどあるんだろうと他人事でなく思う。
若い母としての野乃花も痛ましい。
子どもと一対一でしか向き合えない育児は、とてつもなく孤独だから。
彼女の選択が最善ではなかったかもしれないけれど、もしかするともっと最悪の事態を逃れたのかもと思ってしまう。

親の影響を受けない子はいないし、理不尽や不公平は生まれた時から付いて回る。
しかたのないことはたくさんあるけれど、自分で決めて選べることはもっとたくさんある。
生きてさえいれば。
終盤、正子がようやく怒りを外に向けることができたとき、ああよかった、これで彼女も大丈夫だと思った。
正子に向けたおばあさんの言葉が温かかくて、じいんと響いた。
大切に思われたり必要とされたり、ちゃんと自分を見てくれていたり、そういう実感が人を生かす力になるんだな。
それには、生きてさえいればいい、そう言ってくれる誰かの存在が必要なんだ。

疑似家族のかたちから、生きていく再生の力を取り戻した3人。
どん詰まりの湾から大海へ泳ぎだしたクジラは、彼らの象徴。
晴れやかな読後感。良かった。
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