2007年12月16日

サクリファイス

サクリファイス [単行本] / 近藤 史恵 (著); 新潮社 (刊)

高校まで好成績を残していた陸上から自転車ロードレースに転向、大学卒業と同時にチーム・オッジにスカウトされた新人・白石誓。
エースとアシストという役割分担のあるロードレースでチカは、エースでクライマーの石尾、同期でスプリンターとして秀でた伊庭らには叶わないと思い、アシストとして走ることにむしろ自由を感じていた。
しかしチカの思わぬ活躍に、かつて石尾が頭角を現したひとりの選手をつぶしたという忠告を受け、五年ぶりに再会したかつての恋人からも新たな疑惑がもたらされる。
そして迷いの中向かったレースで、惨劇は起こった。

自転車ロードレースというほとんど未知の競技が舞台で、興味が持てるかしらんと怪しんでいたがなんのその。ぐいぐい引っ張られてしまった。
臨場感のあるレース展開もさることながら、二転三転する「サクリファイス」の意味に翻弄された。
誰が何のために何を犠牲にしたのか。石尾は、本当はどういう人物だったのか。
そして想像もつかない結末。チカが手にしたものの重み・・・
そんな生き方もあるのか、そういう生き方を選ばせる競技なのかと思うと、怖いくらい。
最後までどきどきしながら読んだ。ミステリとしてはとても面白かった。

ただ手放しでほめられないのは、元恋人と事故の被害者の印象が良くなかったから。
へたに恋愛を絡ませないほうが、すっきりと楽しめた気がするんだけど・・・
posted by てまり at 00:00| Comment(1) | TrackBack(0) | 近藤 史恵 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
自転車競技については関心も知識もまるでないのですが、この作品はとても面白く読めました。

集団の先頭を引っ張る選手が空気抵抗を1人で引き受けることになるので、レースの最中でも、相手がライバルだったとしても、順番に先頭交代するのがマナー。

ロードレースにはエースとアシストという役割分担があり、実際には個人競技というよりも団体競技に近いもの。
チームのためにアシストは自分の成績を犠牲にしてまでエースの風除けとなり、エースとは違う場所でレースを作り、逆にエースは自転車にトラブルがあった時はアシストの自転車を容赦なく奪い、傲慢なまでに勝ちを狙う。

まるで知らない世界がとても新鮮に感じられましたし、素直に興味も持てました。
ずっと陸上競技で周囲の期待を担ってきた主人公が、自転車のロードレースでは1位になるために走るのではなく、アシストに徹するのが好きだというところも、とてもよく分かります。しかしアシストに徹したい主人公の思いとは裏腹に、思いがけずエースへの道が開けてしまった時。
周囲の人間の主人公に対する視線や態度は変わり、様々な思惑が交錯して。

そんな風にロードレースの魅力やそれにまつわる人間ドラマを描いていたはずなのですが、この作品はやはりミステリだったのですね。

しかもそのミステリ部分は、それまでの人間ドラマの部分と見事に連動しているのですね。
エースの石尾は、本当に噂されるような人物なのか。
それともチカの目に映っている通りの人物なのか。

スペインのチーム、サントス・カンタンの思惑は、チームの空気にどのように作用するのか。そのミステリが解けた時、無理矢理人間の暗部を覗き込まされるのではなく、その解決によって全てが見事に反転することに。

この解決によって、自転車のロードレースがそれまで以上に理解できたような気がしました。まさにこれ以上の結末はないのではないでしょうか。
冒頭の文章から、最悪の結果も考えていたので、このラストには本当にほっとしました。
良かったです。
Posted by 紫陽花 at 2024年02月26日 00:26
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